マンション改修の歴史5-1

エレベーターの機能回復工事(築後13年目)

 エレベーターの修繕に関する流れをまとめると以下のようになる。
 節目、節目のエピソードを交えて、詳細に報告したい。

1998.秋 大規模修繕が終結し、ほっと安堵する
1999.1 エレベーター保守会社から、管理会社に宛てて、「見積書」が届く。
エレベーター機械室にある、制御盤のボードやリレー類を更新すべきで、4基の合計で580万円かかるという見積もりだった。
1999.5 エレベーター保守会社と、膝詰め談判?
1999.6 理事会で、エレベーターの機能回復工事と、来年度から保守契約のスタイルを変更する提案をまとめる。
1999.7 臨時総会で、理事改定案が可決
1999.8 機能回復工事の金額、保守契約の金額を最終的に煮詰める
1999.10 機能回復工事開始
2000.3 機能回復工事完了
2000.4 フルメンテナンス契約に移行する
2000.6 機能回復工事の代金支払い完了

 エレベーター問題を考えはじめてから、修繕の完了まで、じつに1年あまりを費やした。
 とくに、問題解決に奔走した半年間は、私は札幌を離れて単身赴任生活をしていた。
 そのため、情報収集には限りがあったし、結果として調べたいと思ったことの半分も掌握できなかった。
 しかし、私は、その条件の中では、ベストを尽くしたという気持ちである。

 エレベーターの修繕を終え、その支払いを完了した今、ようやく公開に踏み切ることができた。
 この件については、とくに専門家(エレベーター保守関係者)の方から、ぜひご意見を伺いたいと願っている。

エレベーター保守会社から届いた、修繕の見積内訳書(築後13年目)

 なにはともあれ、管理組合にとって、「晴天の霹靂」とも言えた、「見積書」の内訳(要約)をここに紹介しよう。
 じっさいには、1号機から4号機まで、まったく同じ内容の見積書を、4枚に分けて提出されたのだが、それを以下にまとめた。
 見積書は、管理会社宛のため、わざと日付を空欄にしてあり、いつ発行されたか、正確には分からない。
 1999年の年明け、私たちに届けられたことは、間違いない。

 ◆札幌マンションサービス宛 見積書    (メーカー保守会社発行)

 【見積り内容】
  ○建物内エレベーター4基に対する下記機能維持工事一式
    1.モーター帰還制御用ユニット取替・調整(テストウエイトにて調整)
    2.制御盤内主要リレー取替
    3.マシンギヤーオイル取替
    4.マシンブレーキ分解・手入れ・調整
    5.かご、各階ドアガイドシュー取替

品   名 数量 単位 単価 金額 備考(筆者注)
モーター制御帰還制御ユニット 4 750,000 300,000 コンピューターで言えば、マザーボードのようなもの
制御盤の中枢部分
制御盤リレー NIS 4 9,000 36,000 以下、ドーターボードのようなものと思えば良い。
制御盤リレー ZRS,LR 8 8,500 68,000  
制御盤リレー DO,DC,DRR,SDP 16 5,300 84,800 DOとは、ドアオープン制御盤とのこと
制御盤リレー AZX 4 2,000 8,000  
制御盤リレー DZ 4 2,200 8,800  
制御盤リレー UD 4 21,000 84,000 アップダウン制御用
制御盤リレー U,D,1P 4 45,000 180,000  
純正マシン用ギヤーオイル 4 8,100 32,400  
ブレーキ清掃用ウェス 2 1,100 2,200 ウェスとは、「ぼろ切れ」の意味
かご・各階ドアガイドシュー 144 950 136,800  
調整用ウェート貸与料 450 kg 10 4,500 機能を点検するために、重りを載せて確認する
取替工事費・調整費 1    1,400,000  
運送費 1   65,000  
諸経費 1    766,500  
【合 計】       5,877,000  

  あとから、当時の理事長に話を聞くと、この「見積書」は、理事会の席上で、管理会社の担当者から渡されたそうである。
 「エレベーター保守会社から、そろそろ修繕しないと危険だということで、このような工事を提案してきました。
  こちらに、毎月の点検報告書が出ていますが、各階の停止位置が微妙に狂ってきていて、いつ段差ができてもおかしくないとか。
  床と、エレベーターに段差ができると、乗降に危険が生じますから、ぜひ、理事会でご検討ください。」

 受け取った理事長は、まず、工事修繕専門委員に相談した。
 私は、その頃、札幌を離れて仕事をしていたので、他のメンバーがすぐに動いてくれた。
 委員のひとりが、見積書の内容を理解するために、保守会社に電話して、問い合わせをした。
 保守会社は、こちらの質問に対して、詳しく説明してくれたが、この質問にだけは、答えてくれなかったそうである。
 「ところで、4基いっせいに部品交換したら、全部でいくらでやってくれるの?」
 「残念ながら、札幌Pハイムさんは、私どもと直接契約しておりませんので、価格的なことは、札幌マンションサービスさんを通してしか、お答えできないのですが。」

 そうした経緯があって、わたしがはじめて、この見積書を見たのは、1999年2月のことであった。
 最初に私がしたことは、私たちのマンションの保守契約がどうなっているかということを確認する作業であった。
 まず、理事会保管庫から、契約書の写しをもらって、中身をチェックする作業からはじめた。

私たちのマンションの エレベーター保守契約の歴史 (新築〜築後13年目)

 管理組合便り、ならびに、定期総会議事録・決算書などから、私たちのマンションのエレベーター保守契約の歴史を、振り返ってみよう。
 皆さんのマンションは、どのようになっているか、ぜひ同じような表を作って、比較してみていただきたい。
 じっさいに、同じ形の表を作って書き込んでみれば、わたしのマンションとの違いがはっきりと見えてくるはずである。 

(表 6-1)  札幌Pハイム エレベーター保守契約の経緯
        管理組合が管理会社と一括契約し、メーカー保守会社とは間接契約である。
        年間保守金額は、6人乗り・8停止×4基 の合計金額(消費税別)

西暦 保守契約内容 一基月額 年間保守金額 消費税 小修繕費用 備考
1986 POG・9カ月分 34,500 1,242,000 0 0 竣工から3カ月間は、保守料無料
1987 POG・年7回 22,208 1,066,000 0 0 2カ月経過後、隔月点検に変更(※1)
1988 〃隔月点検 19,750 948,000 14,220 0 半年後、消費税3%導入
1989 19,750 948,000 28,440 0  
1990 19,750 948,000 28,440 0  
1991 〃年9回点検 29,625 1,422,000 42,660 300,000 定期総会で、年9回に変更(※2)
ブレーキ手入れ・ギアオイル取替
1992 29,625 1,422,000 42,660 0  
1993 29,625 1,422,000 42,660 226,600 ブレーキ手入れ・ギアオイル取替
1994 29,625 1,422,000 42,660 329,600 EV押しボタン取替
10 1995 〃毎月点検 39,500 1,896,000 56,880 0 保守会社の申し入れで年12回に
11 1996 39,500 1,896,000 75,840 0 半年後、消費税3%が5%に
12 1997 39,500 1,896,000 94,800 0  
13 1998 39,500 1,896,000 94,800 0  
    13年間の【合 計】 @18,424,000 A564,060 B856,200  13年の総計は  19,844,260

)竣工後、3カ月間は、メーカーの責任で保守点検するから、この間の保守料は不要である。すなわち、初年度の保守料は9カ月分になる。

  1. (※1)(34,500円×2カ月+39,500円×5回)×4基=1,066,000 円
    隔月点検(年6回点検)は、当時の理事長が、「管理費の赤字」を食い止めるために、管理会社に強く申し入れた結果、実現した。
  2. (※2)保守会社から、「築後5年を経過すると、年6回のメンテナンスでは、機能を維持できない」との申し入れがあったようだ。
    「フルメンテナンス 年間 3,188,880 円(税別)を奨めるが、すくなくとも POG 年12回点検 にして欲しい」との提案だったそう。
    しかし、定期総会で、現行年6回点検を、今後は年9回点検とする修正案が可決された。(総会議事録による)
    また、この年、はじめて エレベーターブレーキ分解手入れ・ギアオイル取替を行った。(約30万円 領収書は不明

 契約の状態によって、年間の保守金額が大きく変わっていることを注意して見ていただきたい。
 ただし、私たちのマンションは、間接契約だったから、すべて管理会社を通して、金額交渉をしてきた。

 ここで、エレベーター保守契約について最低限の基礎知識が必要になるので、解説しておこう。


  まず、保守契約の形態は、直接・間接の二通りある

  1. 管理組合と、エレベーター保守会社とが直接契約する
      (両者が捺印した契約書が存在する)
      (保守料金は、管理組合と、エレベーター保守会社が直接交渉する)
  2. 管理組合が、管理会社を経由して、エレベーター保守会社と間接契約する
      (ふつうは、新築分譲の多くが、この形式になる。)
      (この方式は、多くの場合、区分所有者の無関心を助長し、契約形態がどうなっているかさえわからない)
      (当然ながら、管理会社経費が発生することを、忘れてはいけない)
      (私のマンションも、この方式だった)  

  つぎに、エレベーターの保守内容は、FM・POGの二通りある 

  1. FM契約=フルメンテナンス契約 (メーカーによって、独自の呼び方をしている場合もある)
  2. POG契約=部分メンテナンス契約(parts,oil,grease の略で、早い話が点検だけして、油を差す程度の保守)

  このふたつの違いは、とても重要なので、別項を立てて説明を加えることにする。

  もうひとつ、エレベーター保守会社の選択も、メーカー系・独立系の二通りある

  1. メーカー系保守会社:三菱・日立・東芝・オーチスなどのメーカー名を冠している保守会社である。
  2. 独立系保守会社: 上記以外の会社。 日本に何社あるのか、どんどん増えているので、実態はわからない。
                知りたい方は、インターネットで検索してみていただきたい。

 いずれにしても、エレベーター保守契約の状態を説明するのに、以上の3つのキーワードを最低限、理解しておく必要がある。
  ◆2×2×2=8通り ということである。
 (定員、停止階数、速度、モーターの制御方式などややこしい話は、ひとまず考えるのは棚上げしておこう。)
  わたしの勉強も、こんな基本的なことから、始まったのである。
 

FM契約と、POG契約……エレベーター保守契約のツボを理解する 

 FMとPOGの違いを、ここで整理しておく。
 これを理解しておくことが、エレベーターの契約の基本である。
 まず、非常に簡略な表で比較する。

項目 内容 FM POG 備考
点検 定期点検  点検に関して、差はない
消耗部品 ヒューズ・リード線・ランプ
油脂類・ウエス 等
POGに含まれる消耗品は、ほんのわずか
故障対応 平日 平日の通常勤務時間、差はない
日曜祝日・夜間 ▲有償 POGでは、有償となる
機器の修理 分解・手入れ・取り換え等
▲有償 巻き上げ関係・制御盤・かご機能・ロープ類その他、エレベーターの昇降機能に関わる部品の修理は、FM契約にすべて含まれる。
検査前工事 ・・・  ▲有償  
天災等 いたずら・故意・管理不良 ▲有償 ▲有償 天災等に関しては、差はない
法定定期検査 立ち会い含む 建前は別途だが、煩雑になるので、契約に含む例が多い
FM除外内容  1.機械室内、建物付属設備(照明・換気設備等)
 2.昇降路周囲壁・及びガラス
 3.巻上機・電動機の一式取り換え(部品の取り替えは無償)
 4.下記の仕上げ直し(塗装・メッキ)・修理・取替・清掃
   【かご室・かご扉・三方枠・乗り場戸・敷居・かご床タイル】

 FM契約で、除外されている内容を、じっくり読むとわかることだが、ずっとFM保守契約を続けたとしたら、「古くさいけれど、とにかく最低限安全に昇降するエレベーター」が、そこに存在することになるはずだ。美観・古くささを気にしなければ、機能的には問題ない。
 たとえて言えば、きちんと整備された中古車(クラシックカーと書くと、誤解を招きそうだから)のイメージであろうか。
 あとで知ったことだが、FM契約に「有効期間」を定めている保守会社もある。
 概ね、20年から30年の間であり、それを超えると「リニューアル」工事をするという前提で、再度契約内容を見直すそうである。
 (私たちのマンションの保守契約は、そのような期限の設定がないので、私は期間設定についてはよくわからない。)

 POG契約では、故障対応の際には有償になると覚悟しておくことと、クルマと同じで定期的にオイル交換などを確実に実施することが必要になる。管理組合が、そのことをきちんとわきまえていれば、相対的にFM契約に比べて、POG契約のほうが安くなる。(詳しくは、あとで)

 以下は、内緒話のたぐいであり、信憑性があるかどうかは、私にはわからないが、体験談として書く。
 私にはずっと以前に聞いて、頭にこびりついている話があった。
 私は、職業柄、多くのエレベーター・メーカーといっしょに仕事をしてきた。
 マンションに入居して、間もなくのことだったと思うが、現場が竣工した際、エレベーター・メーカーの技術者にエレベーター保守契約について聞いたことがある。

「うちのマンションのエレベーターは、POG契約なんだけれど、フルメンテにする必要はないんだろうか?」
「そうですねえ。うん、クルマと同じだと考えたら良いですよ。たとえば、監督さんは、新車を買ってから最初の車検まで、6カ月点検、1年点検に出してますか?」
「いやあ、ぼくは6カ月点検なんて出したことないよ。もっとも、毎日の始業点検は欠かさないけれどね。」
「始業点検が、POG点検だと思ってください。そして、6カ月点検、12カ月点検を、きちんとしなきゃ気が済まない人っていますよね。そういうひとは、フルメンテが良いんです。」
「え? 何それ? そんなレベルの問題なの?」
「私の個人的な考えですが、フルメンテなんて、気分の問題ですよ。万一、夜間・日曜に故障しても、絶対の安心が欲しいならフルメンテ。多少の我慢ができるなら、POG。これなら、どうです?」
「多少の我慢って、たとえば、夜中にエレベーターが止まって、真っ暗な中で待っているのも我慢のうち?」
「はっはっは、確率論ですよ。」
「でも、当たったら終わり?」
「またクルマに例えますけれど、よっぽど派手な走り方をすれば別だけれど、今のクルマが2年くらいで故障するなんて、考えられますか?」
「あんまり、考えられないよね。」
「じゃ、クルマとエレベーターを比べて、どっちが過酷な仕事をしていると思います?」
「圧倒的に、クルマのほうが複雑で過酷だと思うよ。」
「その通り。クルマなら2年、つまり最初の車検までは大丈夫。だったら、エレベーターは、10年は大丈夫です。」
「10年?」
「そう。経験的に、10年間はPOGで良いんです。でも、10年過ぎたらPOGじゃだめですよ。一気に痛みが出てきますからね。そこではじめて、フルメンテに切り替えるんです。」
「切り替え? そんなことできるの?」
「ウチのエレベーターは、できますよ。私がオーナーなら、ぜったいにそうする。それが一番安くて安心な、賢い選択です。」

 そんな会話をしてから、10年以上が経過した。
 気がついたら、13年目で、こうした事態に直面して、思わず、彼の言葉がよみがえってきた。
 「10年過ぎたら、POGじゃだめですよ。一気に痛みが出てきます。」
 こいつは、腰を据えて考えなければ・・・。

  ◆1999年2月27日 理事会・専門委員会 には、以下の懸案事項を提出した。

  1. 階段室手摺り 取付け希望への対応
  2. 正面通路の ロードヒーティング新設検討
  3. 屋外駐車場の 舗装補修の検討
  4. 鋼製物置 建て替えの検討
  5. 階段室夜間照明の タイマー・センサー設置検討
  6. エレベーター保守工事と、契約の見直し
  7. 長期修繕計画の見直し
  8. 管理委託契約の見直し

 理事長にそれぞれの大まかなスケジュールを説明して、私の仕事の都合もあるので、4月まで実質的な交渉を待って貰いたいと申し入れた。
 エレベーターの故障がいつ発生するか分からない という状況での綱渡り作業が始まった。

方針を立てて交渉を開始する (築後13年目 春) 

 さて、いったい どこから交渉を開始したら良いのだろう?
 思いつくままに、MEMOをしながら、方針を立てた。

 ★ メーカー以外の保守業者から見積りを徴収したい。電話帳で調べる。
 ★ 他のマンションでは、どんな金額で契約しているのか、知りたい・・・でも、どうやって?
 ★ POGから、フルメンテに切り替えることが本当にできるのか? 確認する。
 ★ フルメンテにしたほうが、本当に安くて安心な選択になるのか? シミュレーションしてみる。
 ★ この問題で、信頼するに足るアドバイザーがいるか? 誰に相談しようか?
 ★ 管理会社経由の契約形態だから、保守会社は直接交渉に応じないだろう。 どうやって、保守会社と直接交渉しようか?
 ★ 理事会に、エレベーター保守を直接契約に切り替えるという方針を打診して、了解を得てからスタートだ。

 赴任先の現場が3月末に竣工し、次の現場の準備まで、束の間の休息を迎えたので、4月に活動を開始した。
 4月17日、理事会・専門委員会で、交渉スケジュールを説明し、臨時総会までの大きな流れを作った。
 (じっさいには、管理会社変更の動きが同時に進行しており、この年は多忙を極めた。)
 
 そして一方では、マンションのネットワークを作る動きが加速していた。
 ネットワークと言っても、5−6カ所のマンション理事長が集まっているだけだが、情報収集には事欠かなかった。
 他のマンションのエレベーター保守契約の形態や、金額などの情報も簡単に手に入った。
 メーカー系でない(独立系の)保守業者の仕事ぶりも、聞くことができた。
 そして、実際にエレベーターの保守契約交渉をした理事長さんの「体験談」 (1999/4/24ネットワーク記録)を聞くこともできた。

 5月上旬、大型連休のさなかに、メーカーの担当者と膝を詰めて交渉に着手。
 約2時間の交渉(と半分は雑談)の、要旨のみを書いておきたい。
  ◆は、当方からの要求事項
  ▽は、保守会社の意向(初回の交渉時)

交渉の前提◆電話で説明したとおり、現契約は管理会社経由の保守契約だから、管理組合とエレベーター保守会社が直接交渉できる立場にないが、現契約の切れる9月末で、現契約をいったん打ち切り、管理組合が保守会社と直接契約する方向で話を進めている。
▽現契約をいったん打ち切るということは、管理会社は知っているか?
◆管理会社との管理委託契約そのものの内容検討を開始しているので、7月に通知するまで管理会社に話す気はない。
▽管理会社を変更する可能性もあるのか?
◆それは分からない。が、管理会社との契約がどうなろうと、エレベーター保守契約は、直接契約にする予定だ。
▽では、管理会社との関係がはっきりするまでは、エレベーター保守契約の金額交渉の詰めはしないという前提で良いか。
◆かまわない。今回の交渉は、技術的なレベルでの確認をして、契約形態の一般論を聞きたい。
制御ユニット類取替とは ◆見積書の内容について、わかりやすく説明をして欲しい。まず、制御ユニット関係から。
▽制御ユニットも、内部のリレー装置も、EVの安全運転の根幹をなす部品で、365日24時間、休みなく通電した状態で働いている。そうしたボード類の寿命は7年であり、この建物は築後13年を経過し、明らかに耐用年数をオーバーしていると認識して欲しい。
◆これを放置すると、今後どのような悪さが考えられるか?
▽動作不良による停止が階の途中で発生する危険が高く、その場合は閉じこめ事故につながる。現状のボード類の寿命は断定できないが、そうした事故が2年以内に発生する確率は、きわめて高い。安全面を最優先に考えて欲しい。
◆緊急かつ重要と認識すべきか?
▽そのとおり。
◆では、これまでの13年間、事故無く運転できたのは、平均的に見て、ラッキーだったと考えて良いか?
▽寿命7年と言っても、実際に故障が出始めるのは10年目くらいからと考えて良いが、13年は長寿命だ。
マシンギアオイルの取替とは ◆マシンギアオイルの取替は、どの程度の頻度ですべきものか?
▽制御ユニットの交換は、10年単位の長期修繕計画として位置づけられる話だが、マシンギアオイルの取替は、定期保守の範囲であり、巻き上げ機の減速ギアの潤滑油の交換である。当社基準では、4年に一度の交換。このマンションの保守記録によれば、91年11月、94年7月に交換しているので、今年(99年)は是非実施して欲しい。ギアの延命につながり、相対的な保守費用が削減になる。
ブレーキ分解手入れ ◆ブレーキ分解手入れの頻度は?
▽当社基準では、毎年1回実施。ブレーキは、安全装置だから理解を。このマンションでは、94年7月以来、毎年お願いしているのに、実施していない。
◆毎年、依頼していた?
▽管理会社を通して、理事会に伝えて貰うようにしている。毎年、依頼文書も出している。見ていないか?
◆私は見ていない。そうだったのか・・・・
ドアガイドシュー ◆ドアガイドシューとは何か?
▽エレベーターのドアは水平にスライドするが、敷居に溝があって、その中にはまっているのが、ガイドシュー。これが摩耗して、掛かり寸法が限界値に達している。放置すると、ドアが外れる危険がある。
◆わかった。それで、144個というのは?
▽各ドア2カ所×各階ドア2枚×8階×EV4基=128枚。それに、各かごドア2カ所×2枚×4基=16枚。 合計144枚。
今後の見通し ◆もしも、見積り通り(587万円)の保守工事をしたとして、POG契約を続けた場合、今後10年間にどの程度の費用が発生するか
▽このマンションは、私たちが提案したブレーキ分解手入れなどの保守点検をきちんと実施してこないで、13年近く放置してきたので、かなり痛みがあるという報告を受けている。たまたま、緊急かつ重要な制御装置の修理だけを提案したが、おいおい、制御盤内の他のボード類の交換。今後2年程度でロープの交換。5年程度でキャプタイヤケーブルの交換。10年以内に制御系統ボード類の2回目の取替(寿命は7年だから)などが予測され、それだけで1000万円から1200万円程度の支出になると思う。その他に、4年ごとののギアーオイル、毎年のブレーキ分解手入れ、押しボタンの破損交換など、通常メンテで毎年平均20−30万円くらいの支出は、最低必要ではないか。
◆10年間で最低1400万円? 毎年平均140万円ということか?
▽その他に、休日夜間の故障が増えてくるので、その出動費も間違いなく発生するから、10年で1400万円という数字は、最低だろう。
FM契約への変更 ◆ズバリ聞くが、これからFM契約に切り替えることは可能か?
▽一定の要件、すなわち、当初からFM契約をしていたら当然保守されていたであろう水準まで、機能回復工事をしていただければ、それ以後はFM契約が可能だ。
◆ちなみに、機能回復工事は、どのくらいの費用になるのか?
▽(しばらく考えて)4基いっせいだということを、考慮して、1基あたり220万から250万円くらい。
◆仮にその工事をしてから、FM契約にしたら、年額どのくらいになるのか?
▽現在のPOGは、消費税別で約190万円。 FMに切り替えると、260万円。
独立系との違い ◆独立系のエレベーター保守会社から、見積りを徴収してあるが、これまでの契約よりは、20%程度下がる。
▽独立系と、価格だけで比較されたら、我々は絶対に勝てない。
◆なぜ?
▽独立系は、修理部品を我々メーカーに発注すれば済む。部品製造の義務も、部品保管の義務もない。そのコストだけで、ばかにならない。我々は、メーカーとして、少なくとも保守契約しているエレベーター個々について、予想される保守部品を手当てしておき、緊急時に即日対応できる体制を作っている。独立系と一緒にされたら、プライドが許さない。
◆そうすると、その分だけ保守契約金額がアップするということか?
▽価格だけで保守契約を決めなら、引き留めようがない。それは、我々の努力が不足している証拠だと思う。
独立系保守会社に変えた場合に予想される事態 ◆じゃ、自己アピールしてほしい。価格だけで、独立系保守会社に変えた場合、将来、どんなことが予想されるか?
▽築後30年経つと、エレベーターのリニューアルが必要になってくる。機械的寿命ではなくて、社会的、機能的寿命がくる。このマンションは、あと16年。そのとき、このマンションには70歳を過ぎた人が何人くらいいると思うか?
◆私も、62歳を超えるから、70歳過ぎの世帯主は、30戸を超えているだろう。夫婦健在なら60人近いだろう。
▽あなたも建築技術者だから、エレベーターのリニューアルがどんな手順で行われるか想像がつくだろう。
◆・・・ある程度は。
▽ここは、2戸1(階段)タイプのマンションだから、リニューアルがたいへんだ。
◆代替エレベーターがないから、工事期間中は、階段を使わなければならないってことか?
▽私は、東京でじっさいにマンションのリニューアルを経験した。2戸1(階段)の10階建てだ。9階、10階に、70歳以上の高齢者がいた。「エレベーターが使えませんから、1カ月階段を使ってください」なんて言ったら、心臓麻痺を起こしてしまう。とても、そんなことはできない。毎日、朝夕はエレベーターを動かして、日中6時間だけ改修するなんていう裏技を考えなければならない。
◆なるほど、そういう努力がいるのか。
▽そういう工事をするために、メーカーだから作れる部品もある。独立系保守会社の力量は、私には分からないが、点検だけなら誰でもできる。しかし、そのエレベーターの延命策や、改修するためのノウハウを考えて部品を作るノウハウは、メーカーにしかない。以上、自己アピール終わり。
見積書を提示 ◆よくわかった。まず、POG契約から、FM契約に移行するための機能回復工事の見積書が欲しい。そして、FM契約の見積書も欲しい。FM契約については、理事会には独立系保守会社の見積書を並べて提示しなければならない。そのことを踏まえて、誠意ある見積書を作って欲しい。
▽精一杯努力して、見積もりたい。

 5月14日、保守会社から2通の見積書が届いた。 

  1. 機能回復工事見積書
    これまでの内容に加え、制御盤のボードが追加となり、ロープ取替・調整工事が追加になり、総額 8,358,000円(税別)の見積書が届いた。
  2. FM契約見積書
    毎月22万円(1基55,000円)×12月=年間 264万円(税別) の見積になった

ここで、簡単な計算をした。

では、これからの15年間は、どんな計算になるのだろう?

さっそく電話で交渉し、以下の2点を確約した。

  1. 機能回復工事は、税別750万円以下とする。(今後、さらに理事会と交渉)
  2. FM契約は、機能回復工事が総会承認を得てからあらためて交渉する。

臨時総会の招集 (築後13年目 夏)

 これらを文書にまとめて、理事会・専門委員会に諮り、何度も質疑応答を繰り返した。
 懸案事項は、エレベーター問題だけではなかったので、毎週のように週末、理事会を開いた。

1999.5.14 理事会・専門委員会に、「エレベーター修繕・保守契約試算表」を提出し、解説する。
1.金額的には、EV保守費用は、これまでの13年間、たいへん安価に済んだと言える。
2.ただし、総体的に補修費用を抑えてきたために、FM契約の場合よりも、老朽化が進んでいる。
3.15年目の、700万円強の機能回復工事は、必須と考えた方がよい
4.EVは、今後は、急激に補修が増えてくるし、POGでは、夜間・休日の対応に不安あり。
5.また、その都度、100万単位の補修工事の決断を迫られる理事長の負担は大きくなっていく。
6.フルメンテのほうが、すこし高くなるが、将来的に安心できるし、長期的には安価な選択になる。
この結果、理事会としての方針が、ほぼ提案通り固まった。
1999.6.10 4基のうちの1基のエレベーターが、最上階で所定の床から30センチ高い位置で停止する事故が発生。
機能に対する不安は、緊急性を帯びてきた。
1999.7.3 臨時総会議案書(990717総会議案書)を配布  エレベーター関係では以下の議案(要旨)を提出した

1.今年度小修繕として、ギアーオイル交換、ブレーキ点検などを実施したい。(約35万円)
2.エレベーターの故障が、頻発しており、安心して暮らすためには、機能回復工事が必要。
3.かつ、来年度からは、このような緊急工事費用が発生しないよう、フルメンテナンス契約に切り替えたい。
4.ただし、機能回復工事4基分では730万円(+消費税)だが、修繕積立金残高が不足するので、工事の日程を調整した上、工事費用の支払いは、来春3月末とする。
5.来年度の、フルメンテナンス保守契約費用は、年間 2,772,000円(22万円×12月+消費税)となる。
  現在のPOG保守契約は、年間 1,971,840円(である。
  したがって、差額約80万円が、管理費不足となる。・・・管理費の値上げを検討必要
1999.7.17 臨時総会開催 (990717総会議事録
 エレベーター保守工事に関しては、以下のように決定
 小修繕のギアーオイル交換・ブレーキ点検等と、機能回復工事を一括して、修繕積立金を取り崩して施工することになった。
1999.8.5 理事長名で、EV保守会社に、機能回復工事契約および保守契約について、「見積依頼書」を発送。
1999.8.8 理事会・専門委員会にて、EV保守会社と協議。
1.エレベーター機能回復工事は、オイル・ブレーキ等のいっさいを含めて 700万円(税別)とする
2.フルメンテナンス契約は、月額18万円(1基45,000円)×12=年間216万円(税別)とする。
3.ただし、修繕資金の都合で、機能回復工事の代金支払いは、2000年3月以降とし、FM契約もそれ以降とする。
4.それまでは、POG契約を継続するが、実質的にFM契約同等の保守をおこなう。
1999.9. 新年度(1999/10月から2000/9月)の予算に、下記を計上
1.1999/9月から 6カ月間は、これまで通り、POG契約を続行する 月額158,000円(1基 39500円)
2.2000/4月から 6カ月間は、フルメンテナンス契約に移行する   月額180,000円(1基45000円)
1999.10. 【新年度に移行】 機能回復工事を契約し、順次施工
2000.3 機能回復工事の全てを完了
2000.4 築後14年目にして、POG契約から、FM契約へ移行
2000.6 EV機能回復工事代金 700万円+消費税の支払いが完了

 問題の発生から、終結まで、1年6カ月を要した。
 機能回復工事の最後の仕事は、2000年3月末、ロープの張り替え工事だった。
 私は、寒空の中で、2時間立ち会って写真を撮った。
 ロープの取替とは、じつにあっさりした工事で、1基分(3本)の取替に、3人で2時間ほどだった。
 取り換えたロープは、摩耗していた。13年間、10万回ちかいエレベーターの運転を、安全に支えてくれた。
 おもわず、ありがとう! と つぶやいた。

取り換えたロープ ロープ掛け直し
◆取り換えたロープ
 摩耗していることは、歴然であった。
 1日200回×365日×13年=約95,000回運転した結果
◆新品のロープを掛け直し
 1基のエレベーターは、3本のロープで支えられている。
 文字通りの命綱である
新しいロープ ロッドの固定
◆新しいロッド。
 溶融亜鉛メッキしてあり、取り外した古いロッドより、
品質が向上しているようだ。
◆ワイヤーをロッドに固定
 鉛を融かして、ロッドに流し込んでいる。
 工事も、大詰めである。

【後記】
 決して、この方法が最善だというつもりはない。あくまで、事例の一つとして公開した。
 エレベーターの修繕というのは、あまり情報が公開されていないようだから、なるべく詳しく記述した。
 マンションの修繕に関しては、とにかく、生の情報が足りない。
 こうした事例が、せめて10例くらいあったら、選択の余地、考えるヒントがたくさん生まれて来ると思うのだが。

(エレベーター保守の章は  2001.6.3 Upload)


設備改修へ