◆マンション管理組合による 大規模修繕の実践記録


マンションの改修工事の経験を綴った、「個人のページ」です
まずは、開設のご挨拶

全体の構成は、左側の、メニューページをご覧下さい。
以下に、各編の概要を紹介します。全てを印刷すると、A4で150ページほどの量です。
入門編 新築から現在までの修理費用
  56戸規模のマンションの実例
  長期修繕計画は、万能ではない
  予定外の、思わぬ出費の実例
  (2000/3/15 UP)
大規模修繕の基礎知識
  さるでもわかる?修繕積立金の話
ホップ編 入居後から、9年間の軌跡
  総会議事録や理事会発行文書から
  長期修繕計画策定までの紆余曲折
  修繕積立金の推移
  専門委員会の組織は、9年目
大規模修繕に向けての3本の柱
  1. 長期修繕計画の策定
  2. それに基づく修繕積立金の決定
  3. 専門委員会の組織
ステップ編 大規模修繕の準備作業
  試金石としての、排水管問題
  手探りの資料収集
  とにかく、オープンな議論を目指す
  10の失敗事例より、1の成功事例
  専門家ゆえの悩み
専門委員会のしごと
  1. 建物診断の実施
  2. 改修設計提案と見積徴収
  3. 改修設計仕様の決定
  4. 業者決定方法の明確化
ジャンプ編 大規模修繕の実施
  準備を完全に、苦情ゼロを目指す
  施工者と入居者の橋渡し
  どんなことでもオープンに
  (修繕工事は、1998年10月完了)
工事中のちょっとしたヒント
  1. 着工前準備作業
  2. 施工の流れ
  3. 「お知らせ」の発行
  4. 外壁色を総意で決める
  5. 懇親会の実施
第二ラウンド編
(2001年公開)
設備改修の実施
  エレベータが異常停止?
  自動ドアが、異音発生?
  凍結路面で入居者が転倒して骨折
  駐車場の舗装が、割れてきた
  給水管から、赤さびが・・・
設備管理の基本を考える
    私たちが、本当に必要とする
    管理会社とは、
    いったいどんな会社だろう?
    管理会社を変更した決め手は
    私たちの、そんな疑問だった。

開設のご挨拶
このページを開設するにあたって、考えたこと (1998/7/20)

3年前から、マンションの工事修繕等専門委員を経験

 12年前(1986年)から、札幌市内のマンションに住んでいる。
 しごとが、建築の「施工管理」であることから、マンションの「工事修繕等専門委員」を引き受けたのが、3年前である。
 それ以来、マンションのハードウエアのさまざまな問題について、検討したり、打ち合わせしたり、説明したりという時間を数えてみると、ゆうに数百時間を超えている。そして、マンションの入居者に向けて発進した情報量だけでも、これまでに原稿用紙換算100枚を超えている。書き散らしたメモは、その数倍はあるだろう。これらの「死蔵された情報」を役に立てようという発想は、じつはつい最近までなかった。

大規模修繕の準備を進めたが、情報が足りない!

 昨年(1997年)の5月から、大規模修繕の準備を本格的に開始してから、ずいぶんといろいろな「失敗談」を聞かされた。私の同僚も、同じ仕事をしている関係で、やはり自分の住むマンションの工事監理を頼まれて、じっさいに修繕に携わり、「たいへんな思いをした。工事監理なんて、引き受けるんじゃないぞ!」と熱っぽく語った。
 しかし、失敗話から学べることは多々あるのだが、いたずらに不安ばかり煽って、どうなるものでもないだろう。無責任に、失敗話を、あたかも手柄話のように語るヒトは、じつに多い。そういう「失敗談」は、「ヒトの話」として聞く分にはたしかに、面白くて思わず身を乗り出してしまうのだが、当事者(じっさいに、そのマンションに住んでいるひとたち)の気持ちを考えると、とても笑い話にはできない。なにより、そういう話を吹聴する輩は、十中八九、マンションに住んだことのない連中である。
 それよりも、「うちは、こんなふうにやって、満足できる結果になったよ」という話が聞きたかった。そういうアンテナを張って過ごしていたけれど、聞こえてくるのは、やっぱり失敗話ばかりである。たまに、「うまくいった」という話を聞いて、調べてみると、私が考えているような意味で「うまくいった」のではなく、「(管理会社などに)おまかせしたので、無難に終わった」という意味だったりする。
 マンション管理のテキストも数冊買って読んだ。関東や関西には、マンション改修の専門業者や、第三者の検査診断会社などが豊富で、テキストは、そういう状態を前提に書かれている。……札幌では、そのかたちで通用するのだろうか? 関東にはあまり関わりない問題として、結露・凍害・除雪・ロードヒーティングなど、北海道独自にノウハウを蓄積しなければならないものもある。
 けっきょくは、悩みながら手探りで改修のプロセスを立案し、理事会役員さんたちと相談しながら、作業を進めた。
 そのとき、いちばん欲しかった情報は、「うまくいったことも、失敗したことも含めて、うそも隠しもない、生々しい事実の記録」だった。しかし、そんな情報は、探しだすことができなかった。(じつは、最近になって、そういう記録が出版されていることを知り、調査力の不足を思い知らされたのだが……)

自分がいちばん欲しかった情報だから、ホームページを作ろう

 つねに、「このやりかたで良いのだろうか?」と、不安がつきまとった。
 マンション住んでいながら、大規模改修に深く関われば、「うまくいって当たり前、失敗すると住んでいられなくなる」と、確かに思う。たいへんな仕事であることは、間違いない。しかし、私は、「管理会社におまかせ」という安易な道だけは取りたくなかった。自分は「建築施工」のプロであるという気概が、私を駆り立てていたのだと、今になって思う。
 間もなくじっさいの改修工事が始まろうというとき、始めたばかりのインターネットで、「マンション改修」を検索してみて、びっくりした。「横浜マンション管理組合」をはじめとして、多くのホームページが、マンション改修に関する情報を発信していた。私は、それらを片っ端から印刷して、貪るように読みあさった。A4のプリントで、100ページをゆうに超えた。
 結論からいうと、そこには私の「ほんとうに欲しい情報」はなかった。すべてが役に立つ情報だったけれど、どうしても総論中心で教科書的であり、私が欲しかった「各論」が、見えてこないのだ。

 そのころ、インターネットを活用するということと、自分の行動の記録(それまでに溜めた文書)が、結びつくなどとは思いもしなかった。しかし、友人と話していて、「欲しいと思う情報が、インターネットで検索できなかったのなら、その情報こそ、価値ある情報なのだ。おまえの手元にある情報こそ、いますぐ発信すべきなのだ。」と言われ、目から鱗が落ちた。
 繰り返すが、私が欲しかったのは、「うまくいったことも、失敗したことも含めて、うそも隠しもない、生々しい事実の記録」である。プライバシー保護のため、マンションの入居者に関係する情報や、全ての固有名詞を、仮名に書き換えるなどの煩わしい作業を進めながら、私は、「この情報は、欲しいと思っている人にとっては、きっと価値あるものになる。」と確信した。インターネットで、情報を発信するというのは、こういうことをいうのだと、改めて考えている。

兵庫県立芦屋高校のホームページが、勇気をくれた

 兵庫県立芦屋高校の地学の教諭、Sさんは、私の友人である。
 その彼が、いつも年賀状にホームページアドレスを書いているのだが、ことしになって、ようやく私もインターネットに接続できる環境をととのえたので、はじめてアクセスしてみた。
 「阪神淡路大震災と復興の記録」というのがテーマである。
 このホームページは、1997年度の日本教育情報学会第1回ホームページコンテストにて「教育情報学会賞(最優秀賞)」を受賞したそうである。膨大な量のページなので、ときどき散歩をするような気持ちで、拾い読みをしている。
 このホームページから、私は、二つのことを学んだ。

  1.  他のヒトが体験したことのないこと(言うまでもなく、震災の体験)は、どんな断面で切っても、価値ある情報を生みだすということ。ここには、7MBを超える生徒たちの「ナマの声」が詰まっているそうだが、そのどれを取り出してみても、それぞれに具体的で、読む者を圧倒する力がある。
  2.  情報そのものに価値があるなら、装飾(ホームページの見やすさ)には労力をかけずに、とりあえず情報そのものを発信すべきだということ。じつは、私自身、せっかく情報を発信するのだから、少しでも、かっこよい、見やすい、たのしいページを作りたいともくろんでいたのだが、ひとまずそういう気持ちをどこかで割り切るべきだと気づいた。

 阪神淡路大震災の写真集をつぶさに見ると、震災被害が大きくなった背景のひとつに、建物の建築に携わったさまざまなヒト(行政・設計・施工・販売……)の「良心の欠如」とでもいうべきものが浮かび上がってくる。芦屋高校のホームページを読むたびに、私は建築の施工に携わる者として、心が痛む。
 そして、マンションの改修にまつわるさまざまな局面で、同じような「良心の欠如」を垣間見ることがある。
 マンションの改修と、震災被害は、直接には何の関係もないのだが、私の心の中では、「自分の本業である建築の施工」と、「住んでいるマンションの改修」と、「芦屋高校のホームページ=震災被害」は、「作り手の良心」というキーワードによって、トライアングルのように結ばれている。

印刷されて読まれることを前提に、ページを構成

 私たちのマンションでは、工事に関わることを決めるには、理事会4名と、専門委員会4名の協議を行う。
 これまで、私が果たしてきた役割のなかでいちばんたいへんだったのは、そうした会合に備えて、準備書類を作ることだった。
 このホームページでは、過去に私が作成した文書のほとんどを、なるべくそのままの形で公開した。何かのお役に立てれば幸いである。
 前述の、芦屋高校のホームページに敬意を表し、ページの中での装飾は最小限にとどめ、印刷されて読まれることを前提に全体を構成している。
 もとより、これは個人のホームページであり、各地の管理組合ネットワークのような組織力も、十分なノウハウもない。この方法が正しいと主張するつもりも毛頭ないし、他の方法を批判するだけの経験も持ち合わせていない。ただ、私は、私の専門家としての知識と、よきコミュニティを作りたいという「住み手の良心」だけを武器に、この3年間、マンション改修に携わってきた。
 ホームページを作ってみたいと、漠然と考えてから約5カ月。マンションの修繕に絞り込むことを決めて、じっさいに本気で取り組んでから2カ月で、孤軍奮闘してこれだけのボリュームをとにかく作り上げた。誇れるとすれば、娘が私を褒めてくれた、その情熱だけである。
 したがって、正直に言って、穴だらけである。系統だったマクロな理論は、他の書物や、管理組合ネットワークのホームページに譲り、ここでは、ミクロな個人の視点で、その穴だらけの情報を発信することに徹した。
 内容についてはもちろんのこと、ページの構成などで、不備が多々あると思っている。アップロード直前は、長女に応援を乞い、、「テキスト文書打ち込み/1文字につき20銭」という手段もつかって、とにかくなんとか形にした。
 ご教示をいただければと、切に願っている。
 いただいたメールについては、そのやりとりも含めて、順次公開していきたい。

 (1998年7月20日夕刻  「海の日」に、船出をする気持ちで     N.Tera.)


このページを運営して、考えたこと

ネットワークが、社会を変える (2000/3/15)

 20カ月前、蛮勇を奮って、ホームページを公開した。その反響は、自分が想像していたより、ずっと大きかった。
 こんなに、地味で面白くないホームページなのに、毎日平均して、15人前後の方が、見に来てくださる。
 そして、70人に及ぶ方々と、細いながらもメールでの交流が続いている。

 この20カ月、無我夢中で、いただいたメールと格闘してきた。文字通り、メールとの格闘であった。
 単身赴任の期間と重なったため、仕事・メール・通勤が、生活のリズムになった。毎日3時間平均として、一年で1,000時間は、メールを読み、考え、かつ打ってきたと思う。
 そのため、HP更新作業は、今も遅々として進まない。
 本末転倒だとは、わかっているけれど、相談メールを捨て置くことはできない。
 公開して、14カ月で、HPページビュー5000カウント・メール着信500通・メールアドレス50人を、ほぼ同時に達成したときは、嬉しかった。
 いっぽう、相談を受けたメールの中には、1カ月以上にわたり、、数十時間をその解決のために費やしても、結果がまったくの徒労に終わったケースもいくつかある。
 私は、すべて、それらを勉強だと思って、真剣に取り組んできたが、あらゆるメールを、何でも自分一人で引き受けるべきではないということに、最近になってようやく気が付いた。
 仲間をふやさないと、一人では手に負えないことを思い知った。

 私のHPの特徴は、以下の3点である。

   1.わたしは建築士である (一般的に、専門家と期待される)。
   2.じっさいに、マンションに住んで、役員として活動している。
   3.自らの当事者能力を駆使して、マンションの修繕をやり遂げた。

 現在、国内でマンション問題をテーマにした個人のHPは、私の知るだけでも20以上あるが、「マンションに住む建築の専門家」が、主宰しているHPは、ほとんどないと言って良いだろう。
 したがって、わたしのところには、「建築専門家の意見」を求めてのメールが多い。
 皮肉なことに、専門家の意見を求められるものほど、「現場を見ない限り、何とも言えない」ということになってしまい、期待される返事が書けないというジレンマがある。
 いきおい、大規模修繕にかかわる、準備作業についてのやりとりが多くなる。
 それでさえ、私は回答を書くのに難儀する。
 マンションが100あれば、その個性も100通りあると言うことを知ったからである。
 札幌市内からの、「良い業者を紹介してください」という質問にさえ、お答えできない。
 私は、それほど多くの事例を知っているわけではない。
 ましてや、首都圏・関西の方には、コメントのしようもない。
 とにかく、もっとたくさん、こうした事例が公開されたら、私は、そうした方々と、「専門家のネットワーク」を作っていきたいと夢想している。
 (2000年2月に、岩波新書「マンション」が出版され、私よりずっと豊かな経験を持った専門家による情報提供がされたことは、喜ばしい限りである。)

 ホームページの運営を開始した直後から、お向かいのマンションの理事長さんと親しくなった。
 新築分譲のマンションだったので、アフターサービスの問題や、長期修繕計画の策定について、毎週のようにお話しした。
 そこから、自然発生的に、3人・5人と仲間が増えて、「(仮称)マンション連絡協議会」という組織が1999年の1月に生まれた。
 札幌市内にお住まいの方から、メールをいただくと、原則として、そのマンションを拝見することにしている。
 いちど、お会いして、マンションの状態を見ておくと、その後のメールのやりとりが楽になるからである。
 そういう方も、私たちの仲間にお誘いして、協議会の仲間が、やっと10人になった。

 1999年は、4月・7月・10月に勉強会を開いた。
 たとえば、ペット問題・マンションの保険・エレベータ保守点検・町内会加入・管理会社の変更など、それぞれが抱えているマンションの問題を、みんなで話し合う。
 みんなで知恵を出しあうのがミソで、その中から、どういう選択をするのかは、それぞれのマンションが個々に決める。
 いっさい、強制しないのが、私たちのルール。
 マンションの自立を促すためである。

 10棟ちかいマンションの、灯油仕入れ単価を調べたときは、データの威力をまざまざと見せつけられた。
 1999年11月現在、リットルあたり最低26円から、最高41円。(2000年1月以降、原油値上げにより、単価は上昇中)
 じつに、1.57倍の価格差である。
 灯油という、一般に品質差をあまり考えなくてよい「商品」の単価である。
 いちばん安い26円という単価を生み出したのは、近隣のマンションがネットワークを組み、共同購入した結果である。
 そういう経験の中で、すべての参加者に共有されてきたいくつかの思いがある。

 ◆マンションにかかわる情報は、たくさんあるようで、じつは少ない
   本屋に並んでいる書籍も、インターネットで公開されている情報も、加工されているものが多く皮相的である。
   ほんとうに知りたい情報は、地域性・局所性も含めて、身近な生々しい情報である。
   そうした情報は、管理会社が握っていて、マンション管理組合単体では、入手が難しい。
 ◆具体的で、生々しいデータこそ、変革のエネルギーになる
   全国平均のデータとか、新聞で報道されているデータは、そのままでは、マンションを変える力がない
   しかし、自分の窓から見える、「隣のマンション」のデータは、格段の説得力を生む。
   全てのマンションが、「隣のマンション」と協力しあったら、どんなことが可能になるか?
 ◆マンションの理事長は、ひとりぼっちから脱出すると、改革が可能になる
   マンションの舵取りを担っている理事長(理事会)は、孤独感にさいなまされている
   管理会社のやり方に疑問を感じても、管理組合内部で少数意見として抹殺される不安を持っている。
   他のマンションの、同じような取り組みは、事実の説得力という、もっとも確実な「勇気」を生む。
   しかし、ともかく最初の一歩は、あくまで個々のマンション住民の当事者意識である。

 キーワードは、「勇気をはぐくむ連帯」と名付けたい。

 隣のマンションと仲良くなるだけで、世界が広がることを、皆さんは知っているだろうか?
 そういう、草の根ネットワークが、社会を変えていくという事例は、枚挙に暇がない。
 マンションの世界も、ネットワークが変えていくと、私は信じている。 

 (2000年3月15日 19回目の結婚記念日に   N.Tera )


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