【はじめに私見】 2000/3/10記
新築のマンションを購入してから、仮にそのマンションの寿命を迎えるまで、住み続けるとしたとき、果たして総額いくらの修繕費が必要になるのだろう?
長期修繕計画を策定するための各種のテーブル(試算表)は、参考書にも記載されているし、インターネットでも情報収集できる。
管理組合は長期修繕計画を作成して、修繕積立金について検討しなければならないから、そうしたテーブルを参考にするのが普通だろう。
また、長期修繕計画の作成を、管理会社に作成させるケースが大半だろうと思われるが、管理会社も、そうしたテーブルを利用しているはずである。(参考:私のマンションの第一次長期修繕計画表:1989年)
じつは、わたしじしんも、長期修繕計画の作成(1998年の、13年目大規模修繕を終えてからの、第2期長期修繕計画案)に際して、そうした資料を見ながら数字を当てはめてみた。
ところが、そうしたテーブルを使ってみて、たくさんの疑問が生じてきた。
たとえば、インターネットで簡単にアクセスできる、不動産協会HPの「長期修繕計画のあり方」(旧・日本高層住宅協会策定)をみると、 「長期修繕計画モデルの記載例」として、7階建て50戸程度のマンションが、具体的に取り上げられている。
このモデルケースでは、20年間の修繕費用として、1億8000万円から、3億800万円ほどかかると想定し、必要な修繕積立金を、月額1万5000円から2万5000円程度としている。
この幅の開きは何か?
要するに、松竹梅コースがあって、松コースなら3億かかるし、梅コースで我慢すれば1億8000万円で済むという意味なのか?
この大幅な開きがどこから出てきたかを、眺めてみよう。
たとえば、屋上防水のu単価は、7500円から1万6000円まで、2倍以上の開きがある。
どの数字を使えば良いのか?
専門家なら、防水改修の仕様によって、その程度の差が出てくることを、実感として知っているから、「このマンションなら、8000円見ておけば十分だ。」などという判断が可能である。
私が、図面から数量を拾い、そうした項目を積み上げて、ラフに作ったとしても、そこそこの精度の「長期修繕計画」ができるだろう。
しかし、それは、日頃からそういう作業に慣れているからできる話であって、管理組合役員には、3億と言われても1億8000万と言われても、正直いってピンとこない話である。
その、ピンとこない「長期修繕計画」に基づいて、総会決議で修繕積立金を決めていくという作業は、だれが考えても、かなりのエネルギーが必要である。
提案する理事長自身がピンとこない数字を説明するのだから、質問が出たら、立ち往生するのは目に見えている。
いったい、この頼りなさを克服する手段はないものだろうか?
我々は、日頃、他のマンションを目にしている。
タイル張りのマンションに住む人は、タイル張りのマンションに目が行くだろう。
そのマンションに、ある日足場シートがかかって、リニューアル工事が始まれば、「いったいいくら、かかったのか?」と気になるのは当然のことである。
マンションの形状、規模を見て、「あのマンションの大規模修繕費用が、8000万円なら、うちのマンションなら6000万円くらいで終わるかな?」という直感も働かせるだろう。
そんな直感の方が、積み上げ型の修繕計画よりも、じつは精度が高いと言ったら、言い過ぎだろうか?
テーブルで試算しているのは、首都圏のマンション改修費用だろう。
首都圏のマンション改修費用と、札幌のマンション改修費用が同じ単価のはずはないが、ほんとうのところはどうなのだろう?
知りたいのは、今、見えている、ほかのマンションの事情である。
私の住む「札幌Pハイム」は、1986年竣工で、14年しか経過していないが、それでもこれまでに、6,000万円を超える修繕費用を支出している。
その全ては、修繕積立金でまかなっており、いちども「修繕一時金」を集めたことはない。
私たちのマンションの歩みは、同規模の、他のマンションの参考になることを確信する。
私たちのマンション(「札幌Pハイム」56戸)の詳しい紹介は、こちらへ
札幌市中央区 8階建て56戸
単純平面で、外部は吹付タイル塗装の ローコスト・マンションである。
以下、私のマンションに関わる、すべての修繕費用を一覧表にまとめた。
なかには、数万円規模の、修繕積立金に関わるような大きな修繕でないものも含めた。
ただし、煩雑になるので、電球取り換えは除外した。
※費用は、すべて消費税込み。金額は、万円単位に四捨五入した。
年度 | 西暦 | 主たる工事内容 | 年間費用 (万円) |
費用累計 (万円) |
1 | 1986 | (9月入居開始) 第一期理事会は、販売主に対し補修工事を9回申し入れ |
0 | 0 |
2 | 1987 | 雪解けを待って、販売会社が、下記の補修工事を実施 1.風除室(共用玄関)の床長尺塩ビシート張り替え工事 2.建物周辺擁壁のコンクリート補修 3.建物回りの陥没補修 及び 芝生の種まき 4.入口ゲート前の砂利敷き (すべて、アフターサービス工事として対応) |
0 |
0 |
3 | 1988 | 販売会社に対して、アフターサービスの切れる2年目の補修要求 1.外壁の亀裂の補修 2.通路のアスファルト舗装の沈下部(水たまり)補修 3.メイン通路の階段部 モルタル剥離補修 4.駐車場 アスファルト舗装 水たまりの補修 【以下有償補修】 ○排水管清掃(高圧洗浄・以下毎年実施) 15万円 |
15 | 15 |
4 | 1989 | ○排水管清掃 15万円 ○住戸案内板新設他 5万円 ○エレベータ表示灯・フロアヒンジ取り換え他 7万円 |
27 | 42 |
5 | 1990 | ○揚水ポンプ・火災報知器修理 6万円 ○排水管清掃 15万円 |
21 | 63 |
6 | 1991 | ○駐車場入口の排水溝の破損修理 45万円 ○ポンプ部品交換 2万円 ○エレベータ・ドアガイドシュー 7万円 ○玄関ガラス破損 4万円 ○排水管清掃 15万円 |
73 | 136 |
7 | 1992 | ○エレベーター小修理 75万円 (ブレーキ分解手入れ・ギヤオイル取り替え) ○排水管清掃 19万円 |
94 | 230 |
8 | 1993 | ○駐車場舗装補修・消火器格納庫取り換え他 58万円 ○排水管清掃 19万円 |
77 | 303 |
9 | 1994 | ○水道メータ取り換え 39万円 ○エレベータギヤオイル取り換え他 23万円 ○その他小修繕(項目不明) 4万円 ○排水管清掃 20万円 ○排水管修繕工事 248万円(積立金) |
334 | 637 |
10 | 1995 | 1月阪神淡路大震災が発生 ○排水管調査費 11万円 ○玄関泥落としマットの新設 4万円 ○ルーフドレンパイプ取り換え 4万円 ○エレベーター ボタン取り替え工事 33万円 ○ガス排気筒取り換え工事(共用部) 90万円(積立金) ○排水管清掃 20万円 |
162 | 799 |
11 | 1996 | ○灯油メーター全戸の一斉取り替え 86万円(積立金) ○外灯塗装・給水ポンプ修理他 19万円 ○排水管修繕工事 429万円(積立金) |
534 | 1,333 |
12 | 1997 | ○ポンプ修理他 27万円 ○排水管清掃 20万円 |
47 | 1,380 |
13 | 1998 | ○大規模修繕工事(外壁塗装・ベランダ防水他) 3,633万円 ○上記付随工事 60万円(業者のサービス) ○排水管清掃 20万円 ○BS共聴アンテナ取り換え 30万円 ○消火器詰め替え他 11万円 |
3,694 | 5,074 |
14 | 1999 | ○エレベータ4基の機能回復工事 735万円 (POG契約から、フルメンテナンス契約に切り替え) ○自動ドアエンジン取り換え 4カ所 105万円 ○正面通路ロードヒーティング新設工事 399万円 ○上記工事にともなう、給水配管調査 7万円 ○駐車場舗装ひび割れ補修工事 28万円 ○階段手すり設置・試験工事 5万円 ○排水管清掃 20万円 ◆10月 管理会社を変更 (1999年の工事経過は、順次公開中) |
1,299 | 6,373 |
15 | 2000 | ○階段手すり設置工事2 8万円 ○給油設備・給油配管更新工事 830万円 |
838 | 7,211 |
16 | 2001 | ○異常寒波による故障の修繕(予定) ○配管改修調査(予定) |
未定 | 未定 |
いかがだろうか?
あなたの、マンションの長期修繕計画と比べて、私のマンションの現実は、どのように見えただろうか?
ほとんどの方は、長期修繕計画に記されていない、予定外の出費の多さに、驚かれたことだろう。
まさに、計画通りにいかないのが、マンションである。予想外の故障は、つきものと言って良い。
さきに述べたように、私たちのマンションは、形状がローコストにできている。
それに加えて、専門委員会が徹底的にコスト削減に取り組んでいる効果が大きい。
したがって、私たちが支払ってきた修繕費用は、通常より20%程度低く抑えられていることを、付記しておきたい。
具体的なデータだけが持つ、「説得力」を、感じていただけたら、この章の目的は、達成できたとわたしは思う。
次章(ホップ編)以下で、具体的な取り組みを、紹介していくことにしよう。
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