工事監理者からのお知らせ13

1998.11.26 発行 (最終号)

◆帯広で原稿を書いています

 8月8日付けの前号で、皆さんにお願いした「工事完了にともなう最終確認検査」は、全戸から回答をいただきました。い くつかの細かい指摘もあり、私も都合のつく限り盆休暇を利用 して、内容を確認の上、それぞれの方にご説明を申し上げ、手直しが必要な項目については、一覧表にまとめて、札幌塗装工芸 に「手直し指示書」を送付しました。
 札幌塗装工芸から、8月末までに、全ての手直しが終わったという報告を受けましたが、その後、「網戸がきちんと閉まらなくなったので手直しをしてもらったが、すっきりしない」とい うクレームが発生しました。これについては、私が現地調査の上、原因を判断し、札幌塗装工芸に具体的な手直し方法を指示し、10月24日までに、無事に完了いたしました。
 工事着手から、長い間、皆様にご協力をいただき、無事故で工事を終了することができました。ほんとうにありがとうござ いました。
 私ごとですが、
 8月21日から、帯広に単身赴任をしています。受け持ちの現場は、来春までに5階建てを新築する短工期のため、尋常でな い忙しさに追われています。今回のご報告も、たいへん遅れましたことを、ここにお詫びします。工事関係書類も、帯広に持 ち込んで、先日チェックをようやく完了しました。11月15日 の理事会・専門委員会にて、工事終結に関わる経過報 告をいたしました。その内容は、別紙にまとめましたので、ど うか、皆さんの目で、ご確認をお願いします。
 11月28日の定期総会にて、工事全般の報告をおこなうことで、今回の大規模修繕に関する、工事監理者としてのしごとが、 ひとまず完了いたします。
 (ベランダ防水と外壁塗膜の保証期間中、これから毎年、札幌塗装工芸が定期検査を行いますので、工事を監理した者として、 時間の許す限り、その立会を行いたいと思っています。)

◆修繕積立金を無駄にしないというイメージ

 さて、全体の工事の総括は、別紙に譲り、この紙面を借りて、お 伝えしたいことが、いくつかあります。
 その第一は、私が、今回の工事監理をする上で、心の支えにした方のお話です。
 10年前に、私は札幌市内で、キリスト教系学校法人の発注による幼稚園の新築に携わりました。この理事長さんは教会の牧師さんで、 工事を始めるにあたり、私にこうおっしゃいました。
「寺地さん、この園舎の工事費は、教会信者の皆さんが25年かかって、文字通り爪に火をともす思いで蓄えた浄財です。この新築工事では、1円も無駄にしないでください。その心構えで、現場を管理していただきたい。」
 翌日から牧師さんは、毎朝、作業が始まる前の現場を巡回し、釘を拾って歩きました。そして、にこにこしてこう言うのです。
「寺地さん、この釘は1本いくらでしょうか? 大工さんは忙しい から、釘袋から釘を落としても気が付かないのでしょう。これから、 毎日、私が拾って差し上げます。きょうは、ほら、40本も拾いましたよ。」
 私は、背筋に電流が走る思いがし、朝礼で作業員全員にこの話を して、無理・無駄・ムラのない施工を徹底しました。そして、施主・ 設計監理・施工者が、互いにそれぞれの考えを尊重し、努力を重ねた甲斐があって、たいへん出来映えのよい建物が完成しました。(こ の建物は、翌年、日本建築学会北海道支部の「建築奨励賞」を受賞し、 同学会の寒冷地用建築教科書の教材に採用されています。)
 さきの総会で、自ら監理者を買って出たとき、私の脳裏には、この牧師さんの姿がありました。
 組合員の皆さんが、12年間積み立 てた修繕積立金を、1円たりとも無駄にすることなく、もっとも効果的に活用する方法を考えるのは、ごく自然に私の仕事だと思いました。そして、あのときの牧師さんのように、施主の立場に立って、 施工者に協力できることを見つければ良いのだと思ったのです。
 1 円も無駄なくつかうというイメージは、みなさんの心のなかで、さまざまだと思いますが、私は自らの経験から、生き生きとした「モデル」を描き、監理の仕事をスタートさせました。

◆ボランティアという仕事から得たモノ

  私は、正直に申し上げますが、工事が終わった段階で、皆さんに喜んでいただける成果を残せたならば、監理委託費という名目で、 いくばくかの報酬をいただくつもりで、この仕事に着手しました。
 報酬を戴くことで、責任が生まれるとも、思っていました。
 ところが、これも私ごとですが、
 今年の2月中旬(臨時総会の直後)に、私のしごとの上で、まっ たく予想もしていなかった、大きな問題が発生してしまいました。 それを解決しようにも、文献ひとつなく、自分の頭で考えて答を出すしかないという性質のものでした。私は途方に暮れ、どうして良いのか分からないという焦燥感に襲われました。
 (私が、「監理者からのお知らせ bQ」のなかで、一方的で独 りよがりなことばを並べてしまったのは、そのころの精神状態が文章に現れてしまったためで、今思い返しても、恥ずかしさでいっぱ いです。)
 そのころ、私は問題解決のヒントを得るために、手当たり次第に、本をむさぼり読んでいました。そうした本の中にあった、こんな一節が、私の心を射抜くように、飛び込んできました。 「あなたが、自分の手に負えないと思うような問題を解決するため に、『無限の英知』の力を借りたいと望むなら、一日も休むことなく、無償で人のために尽くしなさい。半年も経てば、その問題は、 みごとに解決しているだろう。」
 このことについて思いを巡らしたとき、私にとって、毎日できる無償の行為とは、この改修工事の監理のことだと、自然に思いまし た。そこで、私は、マンションの改修に関する書物を10冊ほど買い込み、毎夜、インターネットで情報を収集しながら、こつこつと、 改修工事の勉強をすることに決め、その上で、毎日祈りをこめて問 題解決の方策を考え続けました。
 そして、ちょうど改修工事がほぼ終わった頃(8月上旬)、たいへん多くの人の協力を得ることができ、その結果として、みごとに問題が解決しました。私は、網の目のように張り巡らされた、「天の恵み」を感じました。
 「何を言っているのか」と笑われても仕方のないような話ですが、私は、「毎日祈りながら続けた無償の行為 が、こうして天に通じたのだ」と、本気で思ったのです。
 以上の話は、今回のしごとを通して、私は十分すぎる報酬をすでに得たということを、お知らせしたかったためで、他意はありません。
 わたしがこの仕事を、無償の行為としてやり遂げたいという気持ちは、以上のような経緯から、自然に生まれたものですので、過日、 理事長さんに、監理報酬は、固くご辞退申し上げました。 

◆契約時点で、私が考えたグレードアップ

 諸般の事情により、「札幌マンション販売」との契約を取りやめ、札幌塗装工芸 との直接契約にすることに決め、相応の「経費減」が見込めるとい う話から、2月6日の総会では、「契約金額は変更せず、実質的な グレードアップ(仕様の変更)によって、このマンションの価値を 高める」という方針が決まりました。
 【HPのための注 : 「札幌マンション販売(仮名)」は、1998年10月下旬、倒産した。】
 さっそく、塗装材料の調査をし、「10年スパンで考えたときに、 より安定している」と考えられる材料をベースにした塗装仕様に変更することを盛り込みました。(専門用語で、RE→SIとした。)
 積算すると、それにともなう増額は、約80万円になりました。
 また、ベランダの床の痛み具合が、診断当時(97年8月)より も進行しており、通常行われている改修方法では、防水保証期間を 持たせるのが精一杯ではないかという危機感が、生まれていました。 つまり、ベランダ床の下地補修の工法を、根本的に見直すべきだと 考えました。
 ところが、ベランダ改修の工法決定・費用算定のためには、全戸のベランダへの立ち入り調査が必要であり、それを実施するには、 どうしても外部足場を設置しなければならないと、認識しておりました。(4/12付け 「お知らせ bQ」 にて既報)
 そんな中で、何戸かの調査を踏まえ、床下地補修のグレードアッ プは、私の費用試算ではざっと100万円ほどになりました。この概算については、札幌塗装工芸のS部長さんの見解とも一致したため、 外壁塗装と、ベランダ床下地補修の2項目をグレードアップするこ とで、皆さんの要望に応えたいと考えました。
 ただ、以上のような経過をたどったため、契約見積内訳書の中で は、ベランダ床の下地補修の項目について、「工法」・「数量」・「単 価」を盛り込むことができませんでした。つまり、契約書には、ベランダ床のグレードアップが、明記されておりませんでした。
 この点に関して、理事会・専門委員会で「ベランダのグレードア ップに関して、契約書にその内容が盛り込まれておらず、また、監理者の考えを、理事会にじゅうぶん説明していなかったのは、手続 きに不備があった。」という指摘を受けました。まったくその通りだと思い、この点については、私の配慮が不足しておりましたので、 お詫びを申し上げます。
  なお、じっさいに、ベランダの補修がどのような流れで進められたかは、お知らせ bS以降に、詳しく報告をいたしましたので、 ここでは割愛させていただきます。

◆札幌塗装工芸さんから学んだこと

 私の専門は、建築工事の施工管理です。公的資格は「1級建築施工 管理技士」で、北海道に数千名います。この資格の法的根拠は「建設業法」にあり、簡単に言えば、この資格がないと、建設現場の監督業務ができません。
 今回の工事を担当していただいた、札幌塗装工芸さんのSさん(改修設計部長)は、「建築仕上診断技術者(通称 ビルディングドクター)」 という資格を持っていますが、この資格者は道内に数十名しかいません。 この資格の根拠は、平成2年の建設省住宅局発の通達で、「社団法人 建築・設備維持保全推進協会」が母体となって、改修診断の専門家を認定 しています。
 どちらの資格が上だということでなく、新築工事と改修工事は、まっ たくノウハウが違うということを理解していただきたいために、こんなことを書きました。
 私は、今回の大規模修繕工事を、目の当たりにして、改修工事の難し さと、長期的に建物の価値を考えるノウハウを謙虚に学びました。
 札幌塗装工芸さんは、改修の専門業者として、このマンションの10年 後・20年後のことを考え、「改修設計案」という形で提案をしてくれま した。私は、建築の専門家として、その提案を隅々まで目を通し、疑問 点は納得いくまで問いただして、施工指示を出しました。その結果、た いへん良い形で、施工と監理の二人三脚ができたと思っております。
 ふだん、施工者として現場代理人(社長の代理人として、現場での全権を委任されている役職という意味)の立場にある私にとって、今回その立場にあった山田さんのご苦労も、悩みも、手に取るように分かりました。だから、私が監理者として心がけたのは、以下の3点です。

  1. 実際にものを作るのは、施工者(職人さん)なのだから、彼らの持っている力を十分に発揮できる作業環境を作ること
  2. 具体的な仕上がりのイメージを、繰り返し明確に施工者に伝え、仕上げで隠れてしまう部分(下地)の処理についても、処置の程度や合格・ 不合格の基準を明確にしておくこと。
  3. 現場の状況を正確に把握し、あるいは予想した上で、施工者からの質疑については、できるだけ、結論(回答)を早く出して、無駄のない施工をリードしてあげること。(例:クレーン車が入るときの、駐車場区画の移動段取り)

札幌塗装工芸さんの仕事ぶりについては、「お知らせ」にて、逐次報告して きましたので、今回は割愛させていただきます。

◆残念なことは、ただひとつ

 仕上がりのイメージについては、着工時から繰り返し繰り返し伝え、 職人さんの末端まで浸透させるよう、こころがけました。
 そして、「良 いモノをつくろう」という意識が浸透していることは、現場を巡回しながら、幾度となく感じました。札幌塗装工芸の職人さんたちは、真剣に頑 張ってくれたと思っております。
 仕上げに入っても、作業の手順を正しく守って、きちんとした仕事を してくれましたので、足場を外す直前まで、私は今回の仕事の出来映えに自信を持っておりました。 ただ、足場を解体して、離れて見たときに、非情にも、足場の形に 仕上げムラが出てしまったことは、唯一、残念でなりません。(「お知ら せ11」にて既報)
 専門委員会でも論議があったことをご報告し、私の見解を、別紙のようにまとめましたので、総会のときにご説明いたします。 

◆私自身の反省と、みなさまへの感謝

 私自身のいちばんの反省は、みなさんに対する情報の開示が不十分だ ったことです。
 考えてみたら、組合員のみなさんは、今回の改修工事の内訳について知る権利があるのですから、工法の変更・追加等についての情報を、全員にお配りするなどの方法で、積極的に情報開示するべき だったと思います。
 今回、遅まきながら竣工に際し、理事長さんと協議して、工法の変更追加工事等を含めた内訳をまとめたものを、別紙添付いたしました。 じっさいに、3,633万円の修繕積立金が、どのように使われたのか、じっくりご覧下さい。
 もう一点、改修工事につきものの、追加工事の発生をどのように処理するかというルールを明確にしておくべきだったことも、反省点とし て明記しておきます。今回は、札幌塗装工芸さんの好意により、追加工事 なしで完了することができましたが、次回の修繕の時には、このルール づくりが必要だと痛感しました。

 さて、私は、じぶん自身の専門が、建築でありながら、入居直後はマンション管理の問題をひとごとのように思っていました。マンションは 「仮住まい」だという意識が心のどこかにあったからだと思います。何より仕事が忙しく、面倒なことに関わりたくないという気持ちが強くあ りました。
 振り返ってみると、そうした中で、マンションの10年後を見据えて、 修繕積立金を値上げしようと発案し、毎年きちんと値上げを推進して下 さった、草創期の理事会の皆さんには、ほんとうに頭が下がります。
 10年も前から、大規模修繕をにらみ、経済的基盤を作っていただい たからこそ、これだけの修繕を、無借金で成し遂げることができたのだと思います。この場を借りて、心から感謝を申し上げます。
 また4年前から大規模修繕に向けて、ともに汗を流してきた専門委員の皆様にも、心から感謝を申し上げます。常に、私の至らぬところをフ ォローして下さり、おかげさまでようやくひとつの峠を越えることがで きたと、ほっと安堵しております。今後とも、ご指導を戴きたく、お願 い申しあげます。
 最後に、今年一年、私にとってはたいへんな年でしたが、陰で支えて くれた妻にも、心から感謝したいと思います。妻も、桑園小学校開放図書館で、司書ボランティア活動をしており、わたしの仕事の、この上ない良き理解者でした。
 多くの方々に、支えられて、今回の修繕が、無事故で終えられたこ とに、あらためて感謝を申し上げます。

★長い間、ほんとうにありがとうございました。


(別紙添付資料)

入居者の方から問い合わせのあった、外壁の「ムラ」について、監理者の見解を申し上げます。

1. 階段室脇 東面の縦の筋について

 ご指摘のあった、縦の筋は、完全な直線で、しかも数階にわたって、同じ位置に筋ができています。
 これは、新築の時の型枠の目違い(2枚の型枠の段差)が原因です。
 今回の工事では、古い塗膜を撤去して、厚さ2oのモルタルを塗りましたが、その厚さでは吸収できない目違いがあったものです。
 改修工事では、下地の不良をチェックして進めますが、型枠の目違いを消すような、厚付けモルタルは、かえって下地の付着力を弱めてしまいますので、採用できません。

2. 階段室北面を中心とした、横方向の筋について

 既報の通り、この建物は、たいへんにひび割れが多く、各所でシールを打ちました。
 階段室の北面は、原因はよくわかりませんが、水平方向のひび割れが無数に発生しておりました。
 幅0.3oを超えるひび割れは、機械でU型にカットして、シーリング材を充填し、その上に樹脂モルタルで平滑にして、塗装を仕上げます。
 ところが、シーリング材は、経年変化で収縮する性質があり、改修時に平滑に仕上げると、3年程度で、凹みのラインが出現してしまいます。
 以上の経験則から、次の大規模改修(約10年〜15年後)までの期間を通して、その凹みが一番目立たなくなるように考えて、ほんのわずか、モルタルを盛ってあります。
 この盛り上がりが、 3年後に消えてなくなるという意味ではなく、長い時間を通して、もっとも改修のあとが目立たないようにという、配慮のもとになされたと、お考えください。 

3. 南面を除く3面の、足場の形のムラについて

 施工者も、全力を尽くして良いものを作ろうとしますが、必ずしもいつも満点の仕上がりにはなりません。
 満点というのは、「期待した仕上げのイメージに完全に合致する」ということです。
 発注者も、監理者も、もちろん施工者も、仕上がりに期待しているのは、共通です。
 職人さんを責めるのは簡単ですが、私は、その結果に至るプロセスこそが大切だと思います
 施工のプロセスのひとつひとつが丁寧だったことを、いちばん近くから見ていたものとして、今回の結果を、責めることはできません。

 なお、札幌塗装工芸としても、札幌Pハイムとのはじめてのおつきあいでしたから、今後とも、よろしくお願いしますという意味をこめて、別紙の追加工事についてはすべてサービスで対応してくださったので、ご報告をいたします。


改修の実際