欠陥住宅を「じぶんのこと」として考える本

 「欠陥住宅」ということばは、わたしの大嫌いな言葉のひとつである。
 ひとくくりに「欠陥住宅」と呼ばれるが、20年以上も建築施工にたずさわってきた私の、素直な気持ちとして、100点満点の「まったく欠陥のない住宅」などあり得ないと思うからである。屁理屈を言うなと非難されることを覚悟で、「100点満点の料理」というモノが想像できるかと敢えて問おう。
 では、欠陥とは何か。乱暴に言えば、それがきちんとしていないと、建物の基本的な機能が損なわれる状態のことである。
 塗装のむらがあるというのは、職人の腕が悪い、美観に関わる問題ではあるが、それでも所定の塗装厚さが確保されていて、ひび割れがなければ、雨風の進入を防げるという基本機能を満たしているから、欠陥とは言わない。
 しかし、タイル張りでキレイに仕上がっていても、その建物のコンクリート躯体のかぶり(鉄筋の納まっている深さ)が小さければ、重大な欠陥となる。
 したがって、見えないところに気を使うのは、施工屋の私にとって、金科玉条である。20年、30年経過してから、欠陥が明らかになるような恥ずかしいことをしない、それが「施工者の良心」というものである。
 若い頃は正直に言って、いろいろな失敗をしてきた。失敗の原因はさまざまで、それだけをテーマにしても、十分にひとつのHPが作れる。失敗したことは、素直にお詫びをして、きちんと手直しして差し上げる。手落ちはあったかも知れないが、手抜きはしたことがないと思っているし、それが、施工者としての当たり前の姿勢ではないのか。失敗から謙虚に学び、同じ失敗を繰り返さないように、努力することも当たり前のことであろう。
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 ところが、自分の住むマンションばかりでなく、これまでに相談を受けたマンションの実態を知るにつけ、そういう「施工者の良心」がどこかに置き去りになっている現実を目の当たりにする。あまりに度が過ぎた事例に出会って、呆然自失したことも一度や二度ではない。ローコストの名の下に、品質そのものが危機に瀕しているように見える。
 また、阪神・淡路大地震の震災被害があれほど大きくなった原因の一つに、施工者の良心の欠如があったことは、風化させてはなるまい。
 欠陥住宅について扱った本は、たくさんあるが、どれを読んでも日本の行政も、司法もユーザー(消費者)に冷たいことを知る。
 消費者は、欠陥住宅問題がすぐ身近にあることを理解し、自分の財産を守るという凛としたした勇気と、時間をかけた自助努力、そして専門家との連携しか解決の道はないということを、こうした本から学ぶべきと思う。
 このコーナーだけは、マンションに限らず、広く欠陥住宅問題に関わる本を取り上げている。

 そして、生産に携わるすべての建築関係者が、欠陥住宅問題を「じぶんのこと」と考える日が来ることを願って。

 (2001/1/24 Upload

欠陥マンション改善の闘い4500日
―ドキュメント・素人がプロに勝つ10の鉄則
・相羽 宏紀【著】
・ウェルフェアグリーン南砂管理組合【監修】
あけび書房 ISBN:4871540251 (2000-07-10出版)
1,600円   B6-223p
 分譲マンションを購入した住人たちが、遮音性能、水漏れなど建物のさまざまな瑕疵(かし=欠陥)と違法建築を発見し、遮音性能と土地問題について12年余、4500日にわたる管理組合としての運動と販売主との交渉によって、ついにほぼ満足のいく決着に至った記録。
 冒頭の一言が、全てを物語っている。「三人寄れば文殊の知恵。もっと大勢なら……」
この一言の重みを噛みしめながら、12年に及ぶ長い闘いを想像するだけで、勇気が湧いてくる。潜在的に欠陥を抱えながら眠っているマンションとは、自分の財産を自分で守ろうとしない人たちが住んでいるマンションのことである。巻末の「素人がプロに勝つ10の鉄則」を読むだけで価値がある。今、何らかの欠陥を抱えて戦っている管理組合の座右の書。


欠陥マンション110番 ───快適なマンションライフを送るための必須知識
集合住宅管理組合センター
集合住宅維持管理機構
民事法研究会  ISBN:489628013 (1988/6/5 出版)
1,700円  B6 258p
1.マンションを購入する前に
2.分譲マンションのチラシ広告の見方
3.モデルルームへ行ってみよう
4.契約をする前に
5.マンションの欠陥(瑕疵)とその責任は
6.安全で快適なマンションライフを送るために
7.専門的知識───誰に助けてもらえるか
8.欠陥マンションの実例集
9.マンションは管理を買え
10.実録 欠陥マンション事件簿
 はじめてこれを読んだときは、とてもインパクトがあった。しかし、多くのマンション見るうちに、何を見ても驚かなくなってしまった。この本のような例は事欠かない。マンションの住民が連帯しなければ、泣き寝入りしかない。その覚悟なくして、マンションに住むなと教えているようだ。


増補新版
この本を読んでから建てよう
山本順三 
三一書房 ISBN:4380992314 (1999/11/30 出版)
2,200円    B6 282p
本書の特徴
1.無知蒙昧な「日本建築界」の非常識ぶりをナデ切り
2.長年の「現場」体験で得たプロの知恵と声がこの一冊に集約
3.温度・化学建材・音・ビニール・断熱・結露・高気密・シックハウスなどをわかりやすくチェック
4.「一生の買い物」で失敗しないための基礎知識が身に付く
5.人権としての「居住する権利」がある
 同じ、「現場屋」が書いた本である。大学の先生でも、有名な建築家でもない。とてもわかりやすくて、思わずうんうんと膝を叩く話が随所にあり、痛快無比の本である。欠陥住宅も、これくらいあっけらかんと話されると、買った方がバカだったな、今度は失敗するなよ、という気分にさせられる。現場を納めてきた絶対の自信が書かせた本である。ここまで言いたい放題のことを言える建築関係者を、私は見たことも聞いたこともない。主として、木造住宅の話ではあるが、断熱・防音についてのノウハウは、確かだと感じる。


裁判官は建築を知らない!?
 私の欠陥住宅訴訟から見た司法の現状と 住宅づくり21世紀への提言
黒田七重
民事法研究会 ISBN:489628027  (1999-2-4 出版)
2,200円  B6 231p
退職金を投じて建てた自宅のクレーム交渉がきっかけとなり、「欠陥住宅を考える会」を発足。
その4年後、重大な瑕疵をみつけて、裁判を起こし、高裁判決まで9年の記録。結局、法のもとに、欠陥を解消されないままに結審した。
第1章:怒りと悲しみの判決−裁判官は建築がわからない?!
第2章:欠陥住宅裁判からの教訓−法律は庶民の味方か?
第3章:住宅の意識革命−「甲斐性」に代わる住宅づくり21世紀への提言
住宅レベルの欠陥は、マンションの欠陥より、根が深く、「まったく住めない(生活できない)」というレベルである。なのに、司法判断は、生活感覚ゼロである。彼女の痛みを、全ての建築関係者が自分のことと意識しないと、日本の建築はどうしようもない。


ストップ・ザ欠陥住宅
−−それでいいの? 北の住まいづくり
黒田七重(「欠陥住宅を考える会」代表)
正文舎印刷出版部 1988-12-15出版
1,300円   B6 221p
「ホームセンターの建物は大変暖かくて結露も出ない、ということでしたのに、ここのお宅はどうして結露や、すがもりがひどいのでしょうか」との問いに、1級建築士が答えて「モデルハウスには人が住んでいないからです。」と、帯に書いてある。
第1章:なぜ多発する欠陥住宅
第2章:「よい住宅」とはどんな家?
第3章:「よい住宅」を建てるために
第4章:知っていますか、結露発生のしくみ
第5章:ああ、家が泣いている
 私は、この本を1989年の春に読んでいる。思えば、これが私にとって、欠陥住宅問題とのであいであった。信じられない話がたくさん出ていて、私の書き込み(「!」)は、数十カ所に及んだ。欠陥住宅問題の原点である。


コミック
欠陥マンションの見分け方
欠陥マンション研究会【監修】
一橋出版 ISBN:4834832104 (1998-05-01出版)
850円  …… B6 238p
第1章 購入するまえに、これだけは知っておこう
第2章 欠陥・手抜きマンションはどうしたら見破れるか
第3章 マンションには、なにも問題はないか?
 マンションに関する本は、何でも読んでみようという気持ちで、コミック本を買った。監修している欠陥マンション研究会というのが、なんだかわからないが、まともなことが書いてある。音の問題に関しては、大きな部分ではその通りだと思う。しかし、結露問題は突っ込み不足で、わかったような分からないような書き方をしている。コミックのため、分かりやすさを全面に押し出しているので、全てが舌足らずな感じである。それをコミックに要求しても無理というモノかもしれない。従って、お奨め度はゼロにした。


コンクリートが危ない
小林一輔
岩波新書 ISBN:4004306167 (1999/05出版)
850円  新書 230p
 あまりに大胆な警告を発したので、ベストセラーなり、予言したとおりに、この年、山陽新線のトンネルでコンクリート塊が剥落して、大問題になった。説明はこれ以上不要だろう。
 前半は土木構造物の話が中心だが、後半には欠陥マンションの話が出てくる。一読して、どうしても見てみたいと思い、過去の建築文献を検索して、舞台になったマンションをついに突き止め、2000年9月に、現地を訪れた。しかし、ちょうど2回目の大規模修繕を実施中でシートで囲われていて、肝心なところが見られなかった。折悪しく通り雨にも遭遇し、濡れ鼠になって退散した。残念な、とても悔しい思い出である。


阪神大震災の教訓
【検証】 建造物はなぜ壊れたのか
山室寛之・小林一輔 他 
第三書館 ISBN:4807495313 (1995/11/25出版)
2,800円   B6 252p
業界を覆う手抜き欠陥工事 (山室 寛之)
建造物被害原因の究明と行政責任 (戸谷 英世)
コンクリート構造物は壊れるべくして壊れた (小林 一輔)
建築構造の不具合とその教訓 (須賀 好富)
公共工事の抜本見直しと信頼回復に向けて (長谷川 武久)
 ゼネコン内部の人間として、ゼネコンの欠陥体質を論じられると、腹が立つ。しかし、本書には、ゼネコンや建設業界の人間が、目を背けてはいけないことがきちんと書いてある。我々の仕事は、ひとの命に関わる仕事をしているのだという自覚が薄れてはいないか。欠陥構造物の下敷きになって亡くなった多くの人々の叫びが聞こえないなら、建設のしごとをするべきではないと、痛感させられる。


【写真集】 大震災で壊れた建造物
第三書館編集部  
第三書館 ISBN:4807497006 (1995年3月−4月 出版)
3,600円  A5版 207p
全半壊した16万棟の1/300に相当する建物をひたすら写した「大震災で壊れた家・壊れなかった家」と、その後の調べで20万棟に達したことを受けて発刊された「大震災で壊れたマンション・ビル・鉄道」の2冊を合本して出版。
1−14.隣り合わせの壊れた家・壊れなかった家
2−4. マンションのあっけない倒壊
2−5. 一見無事なマンションも全壊
など、衝撃的な写真が並んでいる
 大震災の起こったとき、私は東京で仕事をしていた。ニュースは食い入るように、毎日深夜まで10時間も見ていただろう。神戸を見に行きたいと、焦れるような思いだった。何が起きているのか、どうして、こんなに簡単に壊れるのか、信じられなかったからだ。しかし、そうした行動を自粛するようにとの報道を受けて、我慢した。だから、このような写真集は、かけがえがない。震災被害を、共有財産として風化させたくないという出版姿勢が良い。合掌。

 

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