はじめてマンションを買った人のための
マンション入門書

 マンションを買うという行為について考えてみると、生活の基本である「衣食住」のうち、「住」を決めるということである。それも、ふつうのひとにとっては、生涯で一度の最大の買い物である。
 クルマを買うときには、デザインだけでなく、安全性や燃費などの性能に注意を払うのが常識だろう。
 マンションを買うときには、自動的に区分所有者としての「権利と義務」が発生するということを、ほとんどのひとが意識していない。私もそうだったが、この「無知」がすべての問題の根元である。居住者の全てのひとが、区分所有法の基本的知識を共有することから、良質なコミュニティの形成が始まる。

 マンションを購入する前に、この中のどれでも良いから、一冊くらいは読んでおきたい。
以下は、私の辛口コメントで、まったくの私見。参考になれば幸いである。
 (2001/1/16 Upload

新訂版 マンション法の解説  ―区分所有法
熊田裕之
一橋出版  ISBN:4891960760 (1997-12-01出版)
660円   A5 96p
 区分所有法の各条文に規定されている内容を初学者でも理解できるように書かれた入門書。 理解しやすいように、必要に応じて「用語解説」を、そして条文ごとに「資料」を添付してある。
(内容)
建物の区分所有(総則;共用部分等;敷地利用権;管理者;規約および集会;管理組合法人;義務違反者に対する措置;復旧および建替え)
団地
罰則
「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」について
96ページの小冊子で、見かけよりも平易な文章であり、すべてのマンション居住者の共通理解として、この本を薦めたい。用語解説も、役に立つ。決して面白い本ではないが、面白くなくても勉強しなければならないと思えば、苦い薬と同じである。


マンションライフを快適にする 実例100章
中村考安
鹿島出版会 ISBN:4306041786 (1985-3-1出版)
1,600円  B6 226p
「初代管理組合役員が、初年度業務を厳正にやるかどうかで、マンション生活が快適か不快かが決まる」「生活騒音では、筆者も被害者である半面、加害者であったと知るまでに相当な時間がかかった」と、扉裏にある。こういう生活者の視点で書かれた本。
1.管理運営をめぐるトラブルの解決 実例40
2.共同生活についてのトラブルの解決 実例35
3.事故・災害・犯罪にかかわるトラブルの解決 実例42
4.維持・保守をめぐるトラブルの解決 実例32
5.コミュニティづくりの工夫 実例50章
資料(マンションに関わる判例)
私がこの本を買ったのは、入居3年目に、管理組合の監事を引き受けた時である。見開きでたいへん見やすく、基本的なツボを押さえてあり、今読んでもはっとさせられることが書いてある。こういう本が絶版になるのは、悲しいことである。やや古さは感じさせるので、是非とも「改訂新版」を出して欲しいと思う。


マンション  −安全と保全のために−
小林一輔・藤木良明
岩波新書  ISBN:4004306566 (2000-2-18出版)
700円   新書 240p
 いま、マンションで起こっている欠陥事例から説き起こし、その原因を分析するとともに、区分所有法や、管理組合の役割を論じている。大規模修繕や各種の保全工事についても、豊富な経験をもとに、多岐にわたって解説している。
 終章では、阪神大震災の被害についても触れながら、「マンション再生」をめぐる議論を紹介している。一貫して、自立した管理組合の活動の大切さを訴えている。
ふたりの大学教授が、岩波新書でマンションを論じるということ自体が、私にとっては、良い意味でショックだった。マンション問題が、少しでも多くのひとに認知され、論議されることになるきっかけになれば良いと思った。建物の診断に関する専門的な知識を、きわめてわかりやすく述べられており、マンション住民の座右の書としても、推薦したい。
 ただし、p47−48にかけての、「結露はどうするか」という部分に関しては、外断熱の知見が欠落しており、この書の表現では、結露被害に泣く人たちは救われないだろう。


マンションの寿命が尽きるとき
小林三郎
NTT出版  ISBN:4757120346  (2000-03-21出版)
950円  新書版 164p
 集住機構でたくさんのマンションを診断してきたプロが明かす「マンション診断テクニック」の数々、もう買ってしまった人も必読の「自己診断のポイント」と「大規模修繕の手引き」、マンションライフを充実させるノウハウなど
第1章 マンションは永久ではない
第2章 マンション購入のリスクを低減しよう
第3章 マンションを終の棲家にしたい人へ
第4章 意識の薄い管理問題
第5章 居住者サイドに立った建物診断と長期修繕計画
第6章 自らが進める大規模修繕
これからマンションを買う人にとって、この本の特徴である、購入前のチェックリストは役に立つかも知れない。ただ、それ以外は、岩波新書「マンション」240ページに比べて、活字も大きく、中身はそうとう薄い。内容的には、この3倍くらいの量をつかって、もっと丁寧に書いて欲しかった。それが残念。


マンションの管理革命
中島猷一 
講談社 ISBN:4062091488 (1998-3-20出版)
1,500  B6 221p
著者は、管理組合新聞社を創立し、編集兼発行人。
1.新築マンション選びはここに注意
2.中古マンションは管理会社より「管理組合」を買え
3.マンション住民が幸せになる管理組合作り
4.組合役員になって資産価値を上げよう
5.将来が明るい管理組合を運営していくために
6.マンション住人の力で日本を変えよう
出版当時、タイトルに惹かれてすぐに購入し、一気に読んだ。目から鱗が何枚も落ちたし、管理組合の運営経験をもつひとなら「その通りだ!」と拍手喝采したくなる話がいくつも出てくる。ただ、ところどころ牽強付会が目立ち、眉に唾をつけたくなる話もある。読み物としてはとても面白いが、教科書にはできないと思う。いいとこ取りをして、活用するなら、それなりに役に立つ本である。

 

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