「札幌Pハイム」(仮名) 工事発注規程

(立案の主旨)

 わたしたちの住む「札幌Pハイム」も、建築後10余年を経過し、今後は順次適切な修繕工事を実施する必要が生じている。
 さいわいにして、わたしたちは組合員の総意により長期修繕計画を策定し、数回におよぶ修繕積立金額の改訂増額を経た結果、1998年度の大規模修繕工事に対しては、必要十分な工事資金を積み立てることができた。
 しかしながら、他のマンションの修繕工事の実行段階を注視すると、問題が散見される。すなわち施工業者の発注や工事の監理については、高度に専門的な知識が要求されるにもかかわらず、工事の発注にかかわる手順に不備があるために、積立金の運用に公正を欠くのではないかと思われる事例がある。たとえば、施工業者決定に際しての調査不足、理事会の専横による業者決定、ずさんな工事監理の結果としての施工不良などである。
 長年にわたって積立てられた工事資金を公正に運用し、結果としてこのマンションの資産価値を高めることは、組合員の総意であり、そのためには工事の発注に際しての公正なルールづくりが欠かせない。
 ここに、「札幌Pハイム」の「工事発注規程」を定め、各種の工事を発注する際の指針とする。

第1条(総則)

 この規程は、各種の工事の実施について、理事長及び理事会がとるべき指針を定めた。
 各種の工事とは、総会で議決された長期修繕計画に基づく大規模修繕の他、計画にない突発的な修繕や日常的な営繕工事の全てに適用する。
2.修理・修繕・改修工事にあたり、建築・電気設備・機械設備その他の業者に対し、工事の発注から完了まで、次条以下の要件を満たすことにより、管理費・修繕積立金運用の公正を期すものとする。
3.管理会社に依頼している小規模修繕工事についても、理事会が直接発注すべきと判断した場合は、事前に管理会社と打合せの上、この規定に準じて発注する。
4.臨機応変の処置として、運用上の軽微な変更・手続きの省略は、理事会の合意による。
5.前項で、変更・省略できるのは、一定金額(200万円)未満の工事に限り、専門家による現場監理・施工業者の現場代理人の選定・現場責任者の常駐等である。

第2条(工事修繕等専門委員会)

 理事会は、各種工事の発注・監理等の業務を円滑・公正に進めるために、理事会を補佐することを目的として「工事修繕等専門委員(以下専門委員と略)」を若干名任命する。
2.専門委員は、工事に関する専門知識を持った組合員や、理事経験者などから、自薦他薦を問わず広く人材を募った上で、理事会で協議し、理事長名で委嘱する。
3.理事長は、専門委員を委嘱した場合、またはその任を解いた場合は、組合報などを通して組合員に通知する。

第3条(工事箇所・範囲・内容)

 理事長は、長期修繕計画に基づき、専門委員の助言を得て、修理・修繕・改良工事の範囲・工事期間・工事名称等を、理事会に諮り定める。
2.理事会は、工事の内容について専門委員の協力を得て、「共通見積要項」を作成する。
「共通見積要項」とは、修理・修繕工事においては、特記仕様書・共通仕様書の他、必要に応じて施工計画書・実施工程表・設計図面等を含む。
3.「共通見積要項」は、工事内容によっては、外部の専門家(建築士・コンサルタント・改修工事専門業者等)による調査・設計が必要になる。このような場合は、専門家に「共通見積要項」の作成を依頼してもよい。ただし、調査費用が発生する場合は、その発注に際し、本規程の次条以下を準用して公正を期す。

第4条(工事見積業者)

 理事長は、第2条で定めた工事内容を組合掲示板にて告知し、工事施工希望業者の自薦・他薦の申し出を広く求める。組合員は、呼びかけに応じて積極的に業者の推薦をする。
2.理事長は、工事施工希望業者に、社歴・工事実績等会社の内容を明らかにできるものを提出させた上で、理事会に諮り、工事見積業者を複数社決定し、組合員に告知する。
3.工事の緊急性・特殊性によっては、特定の業者に発注せざるを得ない場合がある。そのような場合は、専門委員の意見を聞いた上で、理事会に諮って決定することができる。ただし、本規程第8条の「緊急工事」と同様に、総会での承認を得る。

第5条(工事見積の依頼)

 理事長は、前条で定めた工事見積業者に対し、「共通見積要項」その他必要な資料を添えて、期限を定めて見積書の提出を依頼する。
2.見積書の提出は、密閉封印させる。また、見積業者に提供した関係図書は、すべて回収する。

第6条(工事見積の査定)

 理事長は、提出された見積書を、複数の理事及び専門委員の立会いのもとで開封し、内容を比較検討する。見積書の内容について、誤りが認められた場合は、見積業者と協議の上、見積書の再提出を求めることができる。

第7条(施工業者の決定)

 理事長は、理事会において、業者から提出された見積書を十分に比較検討した上、理事の4分の3以上の賛同を得て施工業者を決定する。ただし、必ずしも最低価格を提示した業者が施工業者としての決定条件ではない。理事会は、専門委員の意見を求め、必要に応じて業者の過去の施工物件を確認するなど、選定基準をできるかぎり明確・公正にしたうえで、決定する。

第8条(総会決議・緊急工事)

 修繕積立金を取り崩す工事は、管理組合規約第47条により、総会の議決を経なければならない。
 理事長は、総会において、施工業者の決定にいたる経緯を説明し、総会による議決を得なければ、工事契約を結ぶことができない。
2.ただし、何人が見ても緊急を要し、総会を招集する時間的余裕がない場合は、理事会の全員一致の議決をもって、「緊急工事」を発注することができる。この場合は、とくに専門委員の意見を求めるものとする。
3.「緊急工事」については、もっとも近い総会において、組合員の承認を得る。

第9条(工事契約)

 理事長は、工事施工業者と見積内容・「共通見積要項」を十分に確認の上、金額・支払条件・工期・保証期間等を決め、「工事請負契約書」を取り交わす。ただし、「注文書」「注文請書」を取り交わすことで、「工事請負契約書」に代えることができる。

第10条(工事実施の掲示)

 理事長は、工事着工前に、組合員及び入居者に対して、工事が開始されることを組合掲示板に掲示する。掲示の内容は、工事内容・工事施工業者・工期・作業時間、その他必要事項とする。
 外部足場を設置するなど、組合員の日常生活に重大な支障を及ぼすような工事については、「工事説明会」を開く。この場合、決定した施工業者に、工事内容の説明、安全管理、注意事項等を説明させることができる。

第11条(工事の実施)

 理事長は、工事を施工するにあたり、組合員の専有部分及び専用使用部分に影響を与える場合は、当該組合員の了解を得なければならない。当該組合員の了解を得ずして着工する事はできない。

第12条(工事監理)

 理事長は、各工事ごとに理事の中から担当理事を任命する。また、専門委員を、担当理事のアドバイザーとして、委任することができる。担当理事の責務は、以下の通りである。
@工事の、組合側の監理監督業務をおこなう。
A組合員と、施工業者との交渉窓口となる。
B管理会社・管理人に対して工事内容を熟知させ、協力を要請する。
2.大規模修繕等では、監理業務の遂行に際し、建築の専門知識が求められるので、組合内部または外部の専門家に監理を委託することを原則とする。
 専門家とは、技術士(建設部門)・1級建築士・1級建築施工管理技士及び同等以上と認められる資格を持ったものとし、資格の写しにより確認する。
 監理を委託する場合は、本規程第8条に規定する総会において、組合員の承認を得る。
 監理委託料は、理事会で協議の上、総会の承認を得るものとする。

第13条(現場責任者)

 理事長は、工事施工業者に現場代理人を定めさせ、現場責任者として常駐させ、工事の監督及び入居者との工事上の対応、及び安全の確保に当たらせなければならない。
2.支障がなければ、組合集会室を、施工業者の工事管理事務所として使用させることができる。

第14条(工事写真)

 担当理事は、工事の進捗状況をチェックするとともに、施工業者に修理・修繕部分の前後ならびに施工工程の手順がわかるような写真を撮影させ、関係図書とともに完了検査時に提出させる。
 工事写真は、工事の公正を証明する大切な資料となるので、どんな場合でも省略できない。

第15条(完成検査・中間検査)

 工事完了後、理事会は、工事完了検査を理事長・担当理事のほか、複数の理事・専門委員および委託監理者の立会いのもとに行う。
2.中間検査の必要がある場合も完成検査に準じる。ただし、中間検査が、外部足場上など危険を伴う場合や、相当な専門知識を必要とする場合は、専門委員・専門家に検査を委託し、書面で報告させることにより、これに代えることができる。
3.完了検査証明書は、理事長名でなされるが、同保存書類には、立会人全員が自筆署名する。補完工事(ダメ工事)が必要となった場合は、工事完了証明書の発行は、工事が完全に終了されるまで、保留する。

第16条(工事完了証明)

 理事長は、担当理事の了解なくして工事完了証明書を発行してはならない。管理会社は、工事完了証明書の添付なくして、工事代金支払い請求に応じてはならない。
第17条(追加変更工事)
担当理事は、工事中における工事内容の変更、および追加工事について、監理者または工事業者と十分な打合せの上処理するものとするが、緊急の場合でも必ず理事長の承認を必要とする。また、理事長は必要に応じ理事会・専門委員会を招集し、意見を集約して、理事会の承認が得られない場合は、工事の変更並びに追加は直ちに中止する。
2.追加変更工事によって生じる工事代金の支払いについては、本規程第8条に規定する「緊急工事」と同様の手続きにより、総会の承認を得るものとする。

第18条(工事記録の保管)

 理事会は、発注以前の関係図書をはじめ、各見積業者からの見積書・工事契約書・施工図・工程表・打合せ記録・工事写真等の工事記録・工事受渡し書・支払い関係書類をファイルに綴じて一括保存することとし、次回の修繕工事の有用な資料とする。
2.作業は、担当理事がおこない、組合事務室に施錠して保管する。
3.工事の記録について、組合員からの要求があったときには、いつでも閲覧に供しなければならない。
4.経過措置として、この規程の発効以前の修理・修繕記録は、できるだけ散逸しないように保管するものとする。

第19条(補足)

 この規程に定めのない事項は、理事会の合意によって運用することができるが、定期総会において、その都度報告しなければならない。

第20条(発効)

 この規程は、1998年2月 日から発効する。


ステップ編へ メールはこちら