改修設計書は、作成する業者によって、「建物診断書」の最後に添付する場合と、別冊として作成する場合がある。
要するに、体裁よりも中身である。
私は、建物診断に着手するときに、次のような指示を出した。
を、責任をもって実施でき、その内容について説明できること。
すなわち、改修設計の提案力は、そのまま、その業者の力量と判断する。
私が読んだ、大規模修繕のテキストには、
という考え方も示されている。
この考え方が成立するためには、じゅうぶんな技術力をもった診断専門業者が、複数社市場に存在することが最低限度必要である。
この場合、「十分な技術力」とは、「改修施工業者からの信頼を得られるだけの調査能力」と理解したい。
関東・関西圏のように、改修工事の市場が十分に成熟し、マンションが、自由に業者を選べるなら、そういう方法も、採用できるだろう。
しかし、札幌の場合、果たしてどうなのだろう?
私には、そのような診断専門業者や、改修設計の専門業者が、存在するのか、存在しないのかさえ、調べることができなかった。
それは、正直に言って、私の「新築の専門家であっても、改修の専門家ではない」という能力の限界をはっきりと示している。
さて、2社から提出された改修設計提案を、下記に比較してみた。当然、診断内容の解釈があって、改修設計案が作られるわけである。
この状態で、別途作成された、「(提案型)改修工事見積書」の概算金額(トータル)を添えてみた。
項目 | 北海塗装工業 | 札幌マンション販売 | |
外壁塗装 | 診断 | 外壁旧塗膜はアクリルタイル吹付仕上げ。 既存塗膜引張り試験は、平均値15.72 kgf/cm2とかなり高い数値がでて、健全な塗装塗膜である。 |
既存の仕上げ塗装は、アクリル吹付タイル。 付着力は東面で17.5 kgf/cm2、西面で22.5 kgf/cm2、北面で12.5 kgf/cm2 |
改修 | 旧塗膜劣化部は確実に撤去し、下地処理後、ウレタンエナメル仕上げ。できれば、(高価だが)透湿ウレタン吹付としたい。 | 既存塗装はヘッドカットし、下地処理後、複層仕上げ材REにて塗装 | |
コンクリート | 診断 | 窓廻り四隅にひび割れ。鉄筋露出に至った箇所も。 中性化試験の結果アルカリ性が進行。 |
ひび割れが267カ所。鉄筋爆裂が37カ所。 躯体コンクリートの中性化は東面で8m/m、西面で10m/m、北面で8m/m程度進行している。 躯体コンクリートの中性化は、抑制が必要。 |
改修 | ひび割れや鉄筋爆裂部を補修の上、旧塗膜剥離部のみ塗装下地の補修吹き | ひび割れ等の手当をし、コンクリートの中性化抑制した上で再塗装をした方が最善。カチオン系樹脂モルタルで2回しごき、厚2oの下地処理。 | |
鉄部 | 診断 | チョーキングが進行 | 鉄部材の錆による腐食は少ないが、塗膜表面のチョーキングが著しく、塗り替えの時期。 |
改修 | ケレン・錆止め・塩化ゴム系塗料 | 錆を除去し、錆止めの上塩化ゴム系塗料 | |
屋上 | 診断 | 屋上立上り部に、若干膨れの箇所。経年劣化によるアスファルト保護トップコートの変退色が全般的に進行。 | 屋上防水は立上りに膨れ現象が多く見受けられ、また一部に雨水の浸入している箇所もある。表面の摩耗も激しい。 |
改修 | 屋上立上り膨れ部のトーチ工法補修及び全面シルバートップコート塗装 | 全面再防水 (またはトーチ工法部分補修の上に全面シルバーコート塗装) | |
バルコニー | 診断 | バルコニー床、平面部は以前樹脂モルタルでしごいていおり、コンクリートスラブ及び樹脂モルタルのひび割れが数多く発生しており、その部分からの剥離を助長させています | バルコニー床はひび割れが発生しており、防水機能が低下。笠木モルタルにもひび割れ。手摺支柱付け根の部分で凍害ひび割れ |
改修 | 笠木天端まで不陸調整・樹脂モルタル処理の上、ウレタン防水2o | 下地処理の上、ウレタンゴム系防水材3oで塗膜を形成。手摺支柱も、防水材で巻き込む | |
シール | 診断 | 劣化が著しい | 窓廻り・打継目地等にシーリングが打ち込みされていますが、随所に付着不良・一部破損があり、弾力性・耐候性が低下してきており、防水機能も低下してきている。 |
改修 | 変成シリコーンにて打ち替え | 全面撤去の上、二成分系変成シリコーンシーリングにて打ち替え | |
内部 | 診断 | …… | 共用内部階段室は全般的に壁の汚れが目立ち始め、窓下にはひび割れが発生している。 |
改修 | アクリル系仕上げ塗装 | ひび割れをシール充填の上、アクリル系再塗装 | |
見積金額 | 提案改修金額 3,180 万円 | 提案改修金額 4,250 万円 | |
コメント | 提案見積の段階では、数量の精算をしていないという条件で見積もった。 | 保存されている設計図をもとに、札幌マンション販売(設計・施工・販売)が数量調書を作成したので、数量の根拠はきわめて正確である。 |
以上の、結果を大雑把に比較すると、下地処理の考え方が、まったく違っていることがわかる。じっさい、コンクリート下地処理費は500万円以上の差が付いた。
また、つぎに大きく金額が違ったのは、外部足場である。施工を専門とする私の見解では、北海道塗装の外部足場の考え方は、甘いという印象を受けた。
すなわち、私の見る限り、建物の凹凸に対する外部足場組立の配慮(組立方法・作業手間)が不足していると思われたのである。
断っておくが、提出された「改修設計仕様書」は、10ページ以上の厚さを持ち、下地処理から仕上げに至る材料・工法が明記されている。
下に、その一例を示す。(外部鉄部塗装仕上げ)
一つは、考え方に大きな差の出た「コンクリート下地処理方法」である。
つぎに、改修の考え方に差の出なかった、「外部鉄部塗装仕上げ」 微妙な表現のちがいが、二つの会社のそれぞれの方針を表している。
コンクリート下地処理・北海道塗装の例
既存塗膜 | 基本的に、十分な付着強度があるので、そのまま生かす。 |
鉄筋爆裂処理 | 鉄筋をはつり出し、 で、補修 |
ひび割れ処理 | ひび割れ0.3ミリ未満は、樹脂モルタル増し塗り ひび割れ0.3ミリ以上は、Vカットの上 弾性エポキシ剤充填 |
欠損部 | コンクリート欠損部モルタル補修 |
下地処理 | 高圧洗浄のみ。 ただし、旧塗膜を剥離した部分(上記の補修部分)は、補修吹き付けを行い、下地調整する。 |
筆者注:この会社は、修繕積立金が不足がちのマンション修繕の経験が豊富である。
したがって、とりあえず、下地の補修は最低限度で終わらせて、化粧(新しい塗装)をしようという考え方に立つ。
提案型の仕様としては、レベルが低く、やや不満が残る。
コンクリート下地処理・札幌マンション販売の例
既存塗膜剥離ケレン | 既存アクリルタイルをヘッドカット程度、電気工具にてケレンする。 |
鉄筋爆裂処理 | 鉄筋の錆膨張により、押し出され部分のコンクリートを鉄筋の裏側まではつり取り、 鉄筋の防錆処理を行い、コンクリートの中性化をはかるよう、断面修復します。 (コンクリートのはつり取れない箇所は、はつり取れるところまでとします。 |
ひび割れ処理 Vカットシール工法 |
0.3mm以上のひび割れは、ひび割れに沿って巾10mm・深さ10mm程度の溝を作り、 清掃後、2液混合変成シリコーン系シーリングを充填し納める。 (注: 0.3mm以下のひび割れ処理は、記載なし) |
下地処理 コンクリート中性化抑制 |
剥離ケレン・ひび割れ処理・鉄筋爆裂処理後、水洗いを行い、カチオン系樹脂モルタルは、 左官しごきを行い、2mm厚に樹脂モルタルを付ける。 (厚さ1mmは、モルタルを1cm付けたほどの、中性化抑制効果があると、建設省の改修指針で 表示されています。) 筆者注: |
コンクリート欠損部補修 | 躯体コンクリートの破損している個所は、樹脂モルタルにて補修を行う。 |
筆者注:基本的に、旧塗膜は全て撤去して、下地を全面的にやり直そうという考え方。
ひび割れや鉄筋爆裂を処理した上で、全面的に厚さ2ミリのカチオン樹脂モルタルをしごくことで、今後のコンクリート中性化を抑制する考え。
ひとつの、ポリシーを持った提案である。
項目 | 使用材料 | 回数 | 塗布量 s/u |
塗装間隔 h |
塗装方法 |
素地調整 | 3種ケレン程度 | ||||
下塗り | 変成エポキシ錆止め | 1 | 0.15-0.17 | 24 | 刷毛塗り |
中塗り | 塩化ゴム系塗料 | 1 | 0.16-0.18 | 6 | 〃 |
上塗り | 塩化ゴム系塗料 | 1 | 0.14-0.16 | 6 | 〃 |
工程 | 使用材料 | 塗布量 | 塗り回数 |
素地調整 | ケレン(皮すき・サンドペーパーなど)で、錆・旧塗膜を撤去する | ||
錆止め | 変成エポキシ系 錆止め | 0.16s/u | 1回 |
仕上げ | 塩化ゴム系ペイント | 0.13s/u | 2回 |
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