1996.4.7

排水管の現状についての調査 中間報告

「札幌Pハイム」大規模修繕等専門委員
           文責 専門委員(1級建築士) 寺地信義


 標題のことにつきまして、専門委員の立場から、ご報告いたします。

 このマンションには、3種類の排水があります。
 第一は便所の「汚水」であり、第二は洗面所・浴室・台所から発生する「雑排水」です。
 このふたつの排水は、各戸ごとに便所の奥の「パイプシャフト」と呼ぶ配管スペースで1本にまとめられ、8階を起点とし1階まで、縦配管を落下したのち、1階の床下で水平(緩い勾配)に変わって屋外マンホールに流れ込みます。
 第三は「雨水」で、これは建物の屋上に降った雨が、4本(各階段室)の縦配管を通って、専用のマンホール(雨水桝)まで流れ落ちています。
 これらの排水は、建物北側のマンホールまでは、それぞれ他の系統と混じり合うことなく配管され、マンホールで順次「合流」して、最終的には1本(150ミリ管)にまとめられ、8号室前→1号室前を流れ、西16丁目通りに埋設されている札幌市の下水道本管に接続しています。
 これらの排水管は、直径75〜100ミリメートルの、厚手の塩ビパイプでできており、一般的な建物の配管として、広く使われている材料です。

 ところで、この建物の排水管のトラブルは、入居直後からいろいろと取りざたされ、とくに1階に入居されている方は、それぞれに苦い経験をお持ちのようですが、これまで個別に処理されてしまっており、おおやけの形では報告書がまとめられておりません。
 これら一連の事例調査については、大至急取りまとめて、後日みなさんにお知らせしたいと考えております。

 さて、今回は昨年8月の排水管調査の結果からご報告します。

【且D幌×××サービス による調査結果 1995年8月】  
 毎年、この建物の排水管清掃工事を実施している「且D幌×××サービス」は、屋外マンホールから屋内側排水管に向かって、水圧をかけた洗浄用ホースを挿入し、排出される水の中に異物が混じっていないか目視をするという方法で、簡易な排水管調査を行いました。
 この結果、多数の汚水管から微量ながら土砂が混じって排出されてきました。
 排水管に土砂が混じる原因はいくつか考えられます。

  1. 台所で泥付き野菜を洗ったり、泥のついた靴を洗ったバケツの水を流した場合
  2. 何らかの理由で排水管の一部に土砂が溜まっていた場合
  3. 1階床下部分のどこかにで排水管に欠損(キズ・ジョイントのはずれ等)があり、そこから土砂が流れ込んでくる場合。

 且D幌×××サービス からの報告書には、土砂の出てくる様子から判断して、排水管に欠損がある疑いがあると記載されています。
 万一、排水管に欠損が有るとして、管に穴があくことは考えにくく、配管のジョイント部分の接着が切れて、外れているのではないかとの疑いが強くあります。  もしもそうだとすると、汚物が1階の床下に漏れだしていることになり、事態はきわめて深刻です。

 私たち専門委員の初仕事は、この報告書に対する検討でした。
 もし現状が、この報告書の通り排水管に欠損があるとするならば、早急な対応が求められるのですが、修繕の内容は「前代未聞」と言っていいほどの難工事でもあり、新年度の理事さんとともに、設計施工者である札幌マンション販売鰍フ見解をただすことにしました。
 そして話し合いの結果、札幌マンション販売鰍ニしても、状況の把握・原因の究明が急務であるとの判断から、昨年末にグラスファイバー内視鏡による、調査を実施しました。(費用は、札幌マンション販売鰍ノて負担)


【札幌マンション販売による調査結果 平成7年12月】
 調査の方法は、全長約7メートルの内視鏡を、マンホールから排水管の内部に挿入し、映像をビデオに記録しながら、奥へすすんでいくというものでした。
 ビデオの映像は約1時間に及び、雨水を含んだすべての排水管を順番に確認しました。
 その結果、本来内部から外部に向かって緩やかな水勾配をとり、水が溜まることのないはずの排水管の多数に、弓なりのたわみが生じて、汚物が溜まっていることが発見されました。
 そのかわり、札幌×××サービスが指摘した排水管の欠損(穴・ひび割れ・ジョイントの外れ等)は、1カ所も確認できませんでした。ひとつには、内視鏡の長さが足りず、札幌×××サービスが指摘した位置まで届かなかったことがあり、また、カメラが汚水の中に潜ってしまうと、それから先は全く見えなくなるためでもあります。したがって、この調査で排水管の欠損が見つからなかったからといって、実際に欠損がないかどうかは不明です。

【たるみが生じた原因について】
 この建物の1階床下は、土砂を埋め戻し、そこに配管をサンドイッチし、その上に、1階の床コンクリートを均しています。
 この方法では、埋め戻した土砂が時間とともに沈下して、それと一緒に排水管も沈下してしまう事故があるため、「支持金物」を用いて、配管が下がらないようにするのが一般的です。
 また、そうした事故が起こったときに修繕することが大変なために、最近のマンションでは床下に配管スペース(ピット)を設ける工法が主流になってきましたが、このマンションの建築当時は、埋戻し工法が広くおこなわれていました。
 今回の調査結果から、支持金物の不足・脱落・腐食のいずれかが原因であることは、ほぼ明らかですが、築後9年が経過していることもあり、売買契約書の13条に「本物件につき隠れた瑕疵があるときは、(略)引き渡しから2年間に限り担保責任を負うものとする。」という条項があるために、法的に売り主の責任を問うことはきわめて難しいと言わねばなりません。
 もっとも、排水管のたるみという現象がいつごろから発生していたのか、今となっては調べようがありません。


  (注) 上図は、HPのために作成。

 いずれにしても、床下の排水管の保持方法を目視で確認する以外に、現状を調査する方法がなく、そのためには1階床下の土砂をかき出すことが必要で、たいへんな費用がかかります。
 建築した札幌マンション販売も、このような現象がなぜ生じたのか、技術的に解明する道義的・社会的な責任を感じており、可能な限り協力したいと申し出ております。
 これらを踏まえ、3月2日の理事会・専門委員会では、札幌マンション販売鰍ニも打ち合わせして、次のような方向で進むことを申し合わせました。

【試験工事の実施】
 今回のような現象が起きたこと自体がまれなことであり、建物の基礎構造がこうした事故を予想していませんので、この修繕は工法・費用ともに、相当な難工事と予想されます。
 そこで、つぎのような進め方で検討することとしました。

  1. 札幌マンション販売鰍ェ、試験的に1カ所(107号室床下)を実際に掘って、排水管修理を実施する。
  2. その過程で、随時専門委員・理事の立ち会いを受ける。
  3. 試験工事を踏まえて、札幌マンション販売鰍ナ原因の究明・全体の工事方法の検討・工事費用の算定を行う。
  4. 臨時総会を開き、入居居者の皆さんに報告をし、今後の対策等の話し合いをしたい。
    (工事方法・費用の負担 等)
  5. 試験工事の実施時期は融雪後の地下水位が下がる5月中旬頃からとし、工事着手前に専門委員会に工事施工計画書を提出して協議する。
  6. その結果を、入居者のみなさんに周知した上で、試験工事を実施する。

 試験工事の計画については、主要な構造体を痛めることのないよう、指示をしておりますし、提出される施工計画を十分に検討いたします。
 しかし、工事に際しましては、騒音・交通・悪臭・危険等、さまざまな障害が予想されます。場合によっては、屋外に仮設便所を設置する必要があるかもしれません。
 きわめて大がかりな工事になることは必至です。

 どうぞみなさんのご理解をいただきたく お願いいたします。

【この件についてのお願い】
 専門委員として、予想をはるかに超えた難工事と取り組むことになり、重責を感じております。
 現在の専門委員は、建築・構造・設備関係の資格や経験を持った方々で構成されておりますが、今回の問題は、法律的な知識の豊富な方の協力を仰ぎ、お知恵を借りたいと切望しております。
 また、皆さんの友人・知人がお住まいのマンションで、こうした問題を解決した事例がないかなど、もし何か関連した情報やアドバイスをお持ちでしたら、是非ともお知らせください。
 また、1階にお住まいの方には、のちほど個別にお話を伺いに参りますので、ご協力をお願いいたします。


(注)専門委員会では、大規模修繕の準備作業として、各種調査を行い、このような形で随時皆さんにお知らせしてまいります。
 各種の修繕は、問題の早期発見によっては、工費が大きく削減できる場合が多いので、築後10年を迎える今年は、入居者の皆さまにもご協力を仰ぎ、建物の痛み具合についてのアンケート調査も実施したいと思います。
 なにかお気づきのことがありましたら、お近くの理事・専門委員まで気軽にお知らせください。


【余談】
 上の文章は、私がマンションの入居者に対して発信した、初めての文書である。
 その意味で、たいへんに懐かしい思い出がある。
 ワープロの「改訂履歴」を見ると、着手から完成まで 1日半を費やし、編集に要した時間は396分(約6時間半)で、改訂は8回を数えた。自分なりの推敲を終えてから、妻に読んでもらい、わかりにくい表現を指摘してもらった。
 また、私にとっては常識と思われても、しろうとになじみの薄い専門用語を極力つかわないようにし、最後は当時中学生の娘にまで読ませた。
 配布文書は、どんなに専門的なことを訴えるにせよ、平易な文章に勝るものはない。
 専門的なことを、一般の方にわかるように説明できることこそ、専門家としての自負であると思っている。
 以上は、まったくの余談である。  


排水管問題へ